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ウエストワールドとは、現実世界さながらの巨大アトラクションだ。そこには19世紀、開拓時代の世界がそっくりそのまま再現され、人間そっくりに造られたアンドロイドたち“ホスト”が来場者である人間たち“ゲスト”をもてなす。広大な荒野の中には、開拓者の町、そして農場や牧場などがあり、先住民やメキシコ人の村なども用意されている。そして開拓民やカウボーイ、流れ者などのホストと呼ばれるアンドロイドが、あたかも“実際に生活している”ように配置されているのだ。”ゲスト”は入場前に衣装を着替え、19世紀の人物になりきることで、ウエストワールドの住人になることが出来るのだ。
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ウエストワールドのチケットは、一日で約450万円と高額。しかしこれだけの料金を支払ったゲストには、それに見合った楽しみが約束されている。アトラクション内では、“あらゆること”が許されているのだ。ホストに対しては何を言ってもいいし、何をやってもいい。禁止事項は、一切なし。暴力、セックス、殺人、なんでもOK。たとえ相手が抵抗する女性や子供でも。ゲストに抵抗してみせることすら、ここでは“もてなし”の一環なのだから...。もしあなたがゲストとしてウエストワールドの住人となったら、何をしてみたいと考えるだろうか?
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ゲストを“様々なかたち”でもてなしてくれるホストは、精巧に作られたアンドロイド。見た目も言動も、本物の人間とまったく区別がつかない。ただ、ゲストとホストを見分ける方法がひとつだけある。それは、殺してみること。アトラクション内ではゲストは殺せない設定になっていて、死ぬのはホストだけなのだ。ゲストは銃で撃たれても、決して死ぬことはない。アトラクション内ではゲストを楽しませるために、ホスト同士の殺人も日常的に発生する。死んだホストは運営会社が回収。工場で修理し、再びアトラクションへ戻される。ホストはこうして何度も何度も殺されながら、日々ゲストを楽しませているのだ。こんな過酷な毎日の繰り返しでも、ホストは苦しみを感じることはない。ホストは毎回記憶が消去されるので、常に“初めて”の状態でゲストに犯され、殺される。万が一不具合が生じた場合は、地下深くで保存されることになるだけなのだ。
ウエストワールドの開発者であり最高責任者でもあるロバート・フォード博士。ホストたちにとって“神”ともいえる存在フォード博士を演じるのは、名優アンソニー・ホプキンスだ。冷酷なまでに狂気を突き詰めながら、それを微塵にも感じさせず、最後は上質な“悲劇”にまで昇華させる重厚な演技は、まさにオスカー俳優の名にふさわしい。ホプキンスの代名詞ともいえる『羊たちの沈黙』のレクター博士が「もし莫大な資金を手にしていたら...」と、映画ファンなら思わず想像せずにはいられないだろう。本作でも、撮影当時の年齢(78歳!)を感じさせない見事な演技を見せてくれる。
重鎮ホプキンスの脇を固めるのも、また名優揃いだ。
物語の鍵を握る“黒服の男”を演じるのは、エド・ハリス。『アポロ13』『トゥルーマン・ショー』など数々の話題作で幾度も映画賞にノミネートされた経験をもつ名優が、テレビ地上波や劇場公開作では決して見ることのできない、血も凍るような残忍な悪役を演じている。
ヒロインと“毎回”恋に落ちる流れ者テディを演じるジェームズ・マースデンにも要注目だ。『X-メン』シリーズのサイクロップス役で知られるマースデンは、ハリウッドでも有名な“美声”の持ち主。毎回繰り返されるマースデンのダンディなセリフが、物語のキーワードにもなっている。
この作品の隠れた見どころは、女優陣の“体当たり演技”であることに異論を唱える者はいないだろう。開拓者の町でのメイン舞台となる娼館では、ホストの娼婦たちが惜しげもなく裸体を披露している。アトラクション内では純情な娘を演じながら、メンテナンスの際は羞恥心を含む一切の感情が停止され、毎回のように美しい裸体を見せるドロレス役のエヴァン・レイチェル・ウッド(『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』『レスラー』)や、“娼館のマダム”メイヴを演じるタンディ・ニュートン(『ミッション:インポッシブル2』『クラッシュ』)、娼婦クレメタインを演じるアンジェラ・サラフィアン...。彼女たちの“体当たり演技”なしでは、本作は語れない。
総製作費5400万ドル(日本円にして約60億円)という巨額の予算が投じられた「ウエストワールド」。製作総指揮に名を連ねるのは、映画ファン、そして海外ドラマファンなら知らぬものはいない、あのJ.J.エイブラムスだ。90年代には『アルマゲドン』などの脚本に参加し、00年代からは製作総指揮・監督・脚本・音楽を担当したテレビドラマ「エイリアス」「LOST」が大ヒット。『ミッション:インポッシブル3』で映画監督デビューすると、『スター・トレック』の新シリーズ(‘09、’13)と話題作を手掛け、2015年には監督・脚本・製作を務めた『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が世界興行収入20億ドル(約2200億円)を記録。最新作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でも製作総指揮を務めるなど、その勢いはとどまるところを知らない。まさに、現代最高のクリエーターと言っていいだろう。
「ウエストワールド」は、『ジュラシック・パーク』の作者としても知られるマイケル・クライトンの初監督映画『ウエストワールド』がベースとなっているのだが、そこに現代の人類と科学が抱える“人工知能(AI)問題”を重ね合わせ、重厚なドラマを作り上げたのが、ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイの夫婦だ。ジョナサンは実兄クリストファーの監督作品で脚本を担当し、兄弟による“黄金コンビ”で『メメント』『ダークナイト ライジング』『インターステラー』と大成功を収めた。そして兄のもとを“独立”し、世界一のプロデューサーJ.J.を迎えて制作したテレビドラマ「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」も、5シーズンまで続く大ヒット。J.J.と共に、新“黄金コンビ”として世に送り出したのが本作「ウエストワールド」である。
HBOの代表作「ゲーム・オブ・スローンズ」を凌ぐとも言われるクオリティで、全米で高視聴率を記録。エミー賞22部門ノミネートされ5部門で受賞するなど、高い評価を得た。「ゲーム・オブ・スローンズ」が終了した後のHBO看板番組となることが運命づけられている本作は、目下、5シリーズまでの構想があるという。2018年に放送されるセカンド・シーズンには、世界で活躍する日本人俳優、真田広之の出演も予定されているなど、話題には事欠かない。世界が注目する歴史的傑作を絶対に見逃すことはできないだろう。