プロダクション・ノート
 シッチェスでのロケは2016年10月~11月、ひと月強にわたって行われたが、撮影が始まったばかりの頃は、まさに映画祭の開催期間後半と重なり、三池作品のTシャツが露店で売られていることもあった。折しも、この年の映画祭では神木隆之介が声の主演を務めた『君の名は。』が長編アニメーション部門の最優秀作品賞を受賞。撮影には日本から来たスタッフ・キャスト約70名に加えて、スペイン人スタッフも延べ30名ほど参加。学校のシーンでは、現地の皆さんが学生服を着て、生徒役でエキストラ出演をしている。
 仗助と承太郎が出会うシーンはサンペレで撮影された。現在はホテルとなっている古城がバックにあり、ロケハンの段階では手前の橋に町の若者が描いたらしきグラフィティがあった。『シン・ゴジラ』で日本アカデミー賞を受賞した美術の林田裕至は、この風景を気に入り、映画の世界観に組み込むことに。ところが、ロケが決定した後、町の人々が気を利かせたのか、グラフィティがきれいに除去されていた。結局、美術スタッフは改めて橋にグラフィティを描き直すことになった。
 スタンドは現場では目に見えないが、スクリーン上でははっきり存在しなければならない。現場ではアクションスタッフがスタンドになり変わり明確なビジョンを持って三池監督は精力的に演出し、役者にスタンドの動きを説明しながらスタンドとして現場に立ったり、自ら地べたに寝転んで、踏みつけられる役の俳優に説明したりと、体を張って演技指導をした。三池監督は、とにかくフットワークが軽く、臨機応変に状況に対応する制作姿勢で知られているが、スタッフもそんな監督のやり方を熟知しており、血のりが飛び出すシーンの撮影に移る際にも、その準備が瞬時に出来上がる。それによって役者もテンションを切らすことなく、次のシーンの撮影に入り込めたというから、鉄壁のチームワークと言うべきだろう。
 最も大がかりだったのは、ヴィラノヴァの市庁舎前で行われた冒頭、夜の雨のシーンの撮影だ。クレーンの最大の高さが25メートルにもおよぶハイライダー3台を投入。さらに車高4メートル、全長20メートルの大型給水車が用意されたが、その重量が市庁舎前の石畳を破壊する恐れがあったことから、給水車の水を半分にし、導入口を変更してセッティングをすべてし直し、18時半スタート予定の撮影が結局22時にずれこんだ。ついに給水車から雨が放たれたとき、再セッティング作業に臨んでいた現地スタッフから“アグア(=水)、アグア!”という喝采が起こった。
 また、虹村家のセットとなったヴィラノヴァの豪邸は、この後にホテルに改装される予定の建物。映画に映っていない方向にはプライベート・ビーチがあり、内部にはジャグジーやプールもある。撮影時は無人で、好きに使ってよいという許可を得たスタッフは手を加え、虹村家に“改装”。ここもロケハンの段階では、草むらに囲まれた廃屋感があり、それがロケで使用する決め手となったのだが、現地の人が映画のロケに使われるのだからきれいにしようと気を利かせてしまい、撮影時には草が刈り取られていた。スタッフは親切心に感謝しつつも、またも装飾を施すこととなった。