プロダクション・ノート
 原作世界において、舞台となる杜王町は荒木の出身地である宮城県仙台市をモチーフにした場所で、“住んでみたい町ランキング”上位に入る日本の町という設定。これを映画で描くために、製作陣のロケ地選びが始まった。原作に描かれた杜王町の雰囲気を持った、いちばん良い町はどこか? 町の規模は大きすぎず、小さすぎず、歴史もあれば新興住宅地もあり、それでいて不良少年が住んでいてもおかしくない町――そんなイメージを追求。プロデューサー陣は美術デザイナーと相談し、日本でそのような都市を探したが、原作の世界観を表現できる都市が日本には見つからない。アジア全域からヨーロッパまで、海外の海辺の町も検討されたが、イメージに合った町を見つけだすのは困難を極めた。オープンセットの建設案も含めて検討と試行錯誤が繰り返されるうちに、三池監督からスペインのシッチェスという具体案が出てきた。
 バルセロナの南西約35キロに位置する地中海沿いのシッチェスは、ファンタジー系映画の祭典として有名なシッチェス国際映画祭が開かれていることで知られている。三池監督自身、この映画祭に招かれて何度も訪れたことがあるが、雰囲気も住民の人柄も良く、まさに“住んでみたい町”だった。また、バルセロナは映画や映像作品のロケが多く行われており、撮影隊を迎え入れる体制も他の町に比べて整っている。撮影自体が多く、現地のスタッフの多くはスペイン語だけでなく英語を話せるので意思の疎通も図りやすい。そこはビジュアル的にも、映画製作の面でも、まさに理想の町だったのである。