魔法界の型やぶりなヒーローたち

リーマス・ルーピンからネビル・ロングボトムまで、魔法界のヒーロー像は、いつも予想どおりではありません。

魔法界にはヒーローが多い、と感じるかもしれませんね。それは、魔法を使う事ができる(またその責任を伴う)特別な状況によってなのか、それとも力を求める悪者たちの台頭を防ぐためにそうならざるを得なかったのか。登場人物たちはいたるところで、「生き残った男の子」をはるかに超えて、わたしたち読者のヒーロー像を裏切ってくれました。

もちろん、ハリーは「選ばれし者」としてヒーローの道を進んでいきますが、物語のなかには、ハリー以外にもヒーローがたくさん登場します。困難な状況に直面したとき、それぞれ違う方法で勇気を見せてくれました。

ニュート・スキャマンダーの思いやり

まずは、魔法界の新しいヒーロー、ニュート・スキャマンダーを例に見てみましょう。ニュートは不思議な力で冒険に導かれるわけではありません。魔法動物学者のニュートは、大切な魔法動物たちについて研究する、という個人的な目的で行動しています。政治的な分野に関わるつもりはなく、それどころか、アメリカ合衆国魔法議会(MACUSA)に見つからないようにしていました。

従来のヒーローたちが自信たっぷりで権威のある人物であったのに対して、ニュートは洞察力に優れていて、魔法動物を育てることを得意としています――内気な性格とさえ言えます。社会のはみだし者であるニュートを動かしているのは、勇気ではなく共感です。そこも、彼がより独特なヒーローである理由です。戦いの場面になると、ニュートはダンブルドアやハリーに匹敵するほどの魔法を使いますが、いつもは、思いやりと優しさの気持ちから魔法を使っています。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』では、ニュートは実際に冒険をし、それは感動的なものでした。ティナやジェイコブ、クイニーと一緒に、スーツケースから逃げ出した魔法動物を捕まえ、謎を解くうちに、他者とつながり、わかり合うことを学んでいきます。それまで、ニュートが心をゆるしていたのは、魔法動物だけでした。これまでのヒーローたちが勝ち取ってきた分かりやすい結末ではありませんが、控えめなハッフルパフ生にとっては大きな功績でした。これからニュートがどんな冒険を続けていくのか、目が離せません……。

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自ら犠牲になったセブルス・スネイプ

スネイプが、高圧的な魔法薬学の先生から、自己犠牲の悲劇的なヒーローになるまでの道筋は、ハリー・ポッターシリーズのなかで、最も長く描かれてきたストーリーラインの一つです。そして、いまでもファンの意見が分かれているトピックでもあります。

スネイプの人生は、悪意と孤独に満ちていました。わたしたちの「ヒーロー像」とはかけ離れています。しかし、ヒーローについて語るうえで、自分の命を犠牲にした勇気と、冷酷な印象を大きく変化させたスネイプは欠かせない存在です。二重スパイとしての活躍の秘訣は、静かな情熱でした。学生時代に対立していたジェームズ・ポッターの息子(ハリー)を、何年ものあいだ守っていました。悲惨な運命のもと、亡くなってしまった想い人(リリー・ポッター)を守れなかったことから、自らに課した罰だったのです。あまりにも純粋かつ残酷で、シェイクスピアの劇のようです。

スネイプの死も、従来のヒーローたちと比べると、特に勇敢だったわけではありません。戦いで勇敢に死んだのではなく、ヴォルデモート卿の勘違いで、ヘビのナギニにスネイプを殺させたのでした。そのあと、ハリーがスネイプの秘密に気づくと、いっそう悲しみが増していきます。スパイとしての活躍がヴォルデモートを倒す足がかりになりました。ハリーは何年もスネイプを嫌っていましたが、最後に彼に敬意を示しています。

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』

不屈の秀才、ハーマイオニー・グレンジャー

ハーマイオニーは、本や頭がいいことよりも、もっと大切なのは勇気や友情よ、とハリーに言ったことがあります。しかし、ハーマイオニーの知識や頭のよさには、ハリーもロンも数えきれないくらい助けられています。ホグワーツの戦いでは自分の役割を果たしますが、生き残ったのは、学ぶことに対する熱意と、危険な状況から抜け出す正確な判断のおかげでした。それは、ハーマイオニーが培ってきたものでした。

そのうえ、ハーマイオニーはいつも周りのだれかを助けようとしています。処刑されるバックビークを救うことから、屋敷しもべ妖精の権利向上を求めて熱心に活動することまで、世界をより良い場所にしたいというハーマイオニーの気持ちは、どんなに理不尽な問題を前にしても揺らぎませんでした。ハーマイオニーは、わたしたちに――ロンにからかわれても、スネイプ先生に「鼻持ちならない知ったかぶり」と言われても――自分の知性を誇ることは間違いではない、ということを教えてくれます。ハーマイオニーが秀才でよかったですよね。ハリーは、ハーマイオニーの助けなしではヴォルデモートを倒せなかったでしょう。

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2』

静かに苦しみに耐えるリーマス・ルーピン

魔法使いの社会からも、狼人間の社会からもはみ出し者の、リーマス・ルーピンは長い間苦しみに耐えてきたヒーローです。ハリーたちの前に初めて登場したのは、ホグワーツ特急のなかでした。継ぎはぎだらけのローブに、ぼろぼろのかばん、という格好だったため、はじめは「闇の魔術に対する防衛術」の先生としてあまり期待できませんでしたが、すぐにその予想を上回ることになります。ホグワーツ特急のなかで、吸魂鬼(ディメンター)を追い払い、そのあとすぐにチョコレートをひと切れくれたのでした。リーマスは、勇敢で心の優しい先生でした。魔法界のほとんどの魔法使いは、狼人間であるという理由で彼を避けました。しかし、ルーピンは、ハリーに親身になってくれて、ハリーが必要としていた優しさをくれる人物でした。吸魂鬼の影響を受けやすいハリーに対して、その体質は「欠点」ではないことを教えるルーピンの姿を通して、わたしたち読者は、いろんな種類の勇気があることを知りました。ハリーも、吸魂鬼の影響を受けるのは自然なことだ、ということを学んだのです。

偏見を受けながらも、リーマスは『闇の魔術に対する防衛術』の歴代の先生たちのなかで、ハリーの一番のお気に入りでしたし、不死鳥の騎士団の一員としても活躍していました。リーマスは、マッド‐アイ・ムーディやシリウスのように精力的ではありませんが、それでも、冷静さや知性、穏やかな性格がハリーたちには必要不可欠でした。魔法戦争のときには、我を忘れてしまうことのあるハリーは、リーマスの冷静さに助けられました。

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1』

次第に成長したネビル・ロングボトム

ネビルは、小さいころから魔法使いとしての暮らしに、ものすごく苦労していました。家族でさえ、ネビルは魔法の才能を受け継がなかった、と思っていました。ホグワーツで、大鍋を溶かしたり、ヒキガエルのトレバーをなくしたり、スネイプ先生のからかいの的にされたりしながら、何年か奮闘するうちに、ネビルはおどろくほど変わっていきます。1年目には、校則を破ろうとした友達を止めようとします(しかし、失敗におわります)。7年目のときには、ホグワーツの戦いで、組分け帽子からゴドリック・グリフィンドールの剣を引き出し、ナギニを倒します。ネビルは、ゆっくりと成長して能力を培い、ホグワーツが一番必要とするときにその力を発揮したのでした。ハリー・ポッターシリーズの登場人物のなかでも、ネビルがヒーローとして活躍するまで成長したことは、もしかすると、いちばん感動的なことかもしれません。

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2』

不思議な知性、ルーナ・ラブグッド

ハリーやロン、ハーマイオニーに、ラックスパートやナーグルについて教えてくれた女の子。オレンジ色のカブのイヤリングをつけているような一風変わった見た目からは、勇敢な人物には思えません。しかし、ルーナのことを知っていくと、その印象は間違っていることに気づきます。ルーピンと同じように、冷静に物事を観察するルーナは、カッとなりやすいハリーにとってありがたい存在になりました。実際に、シリウスの死に嘆くハリーを落ち着かせた、たった一人の人物でした。不思議な知性を持ったルーナは、みんなの人気者にはならないかもしれませんが、彼女の奇抜さと楽観主義は、魔法戦争の真っ最中でまさに必要とされていた事でした。

このように、大勢の型やぶりなヒーローたちが、自分たちの才能を役立てて、不可能にも思えるハリーの使命に一緒に立ち向かったのでした。ニュートはわたしたちにどんな戦いを見せてくれるのでしょうか。きっと、ニュートらしい冒険になることだけは確かです。

CREDIT: COURTESY OF POTTERMORE
出典:POTTERMORE
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