DCコミックス

ペンギンの傘を恐れるべき理由

ペンギンの奇妙な見た目をあなどるなかれ。彼はバットマンの敵のなかでも特に要注意な人物だ。彼の背丈の低さや、タキシードに傘を持った出で立ちで、我々はつい気を緩めてしまいがちだが、オズワルド・コブルポットはまさに獲物を捕食する鳥なのだ。そんなペンギンのこれまでの悪名高い前科をおさらいしてみよう。

第一印象

ペンギンが初めて登場したのは1941年の『Detective Comics #58(原題)』で、その登場シーンはあまり華やかといえるようなものではなかった。ブルース・ウェイン(バットマン)とディック・グレイソン(ロビン)は、展覧会を訪れた際に初めて彼を目撃する。その際、ブルースはディックに「人の見た目を笑うものじゃないから、早く行こう」と言うのだった。グサッ。

ブルースの言葉はかなりダメージを与える一撃だったが、ペンギンはのちに人を見た目で判断しては痛い目を見るということを証明することになる。というのも、彼はその後ブルースの目と鼻の先で展示品を盗み出すことに成功するのだ。しかもバットマンに濡れ衣を着させ、ケープを纏った聖戦士(バットマン) を逮捕するように警察に働きかけ、しまいにはまんまと騙してしまう。もちろん、その後バットマンは自分の身の潔白を証明し、ペンギンによる盗品を取り戻すことができたのだが、それでもこの紳士的な犯罪者の初のお目見えにしては感心させられるものだったことは間違いない。

オズワルドの原点

ペンギンの本名がオズワルド・チェスターフィールド・コブルポット であるということは、1946年まで明かされなかった。同年、日曜連載していた新聞の漫画欄で初めてバットマン読者はその名前を知ることになったのだが、彼の生い立ちについては1981年の『The Best of DC #10(原題)』まで明かされることはなかった。ここで、オズワルドが常に傘を持ち歩くようになったのは、母親の影響であることが語られている。オズワルドの父親は雨にうたれた結果、肺炎を患い亡くなっており、それ以来母親のコブルポット婦人は息子に必ず傘を持ち歩くようにと口うるさく言うようになったのだ。

オズワルドの鳥への愛着は、実家が経営していた鳥類専門のペットショップの鳥たちから由来しており、彼のペンギンというあだ名は、まあ、子供はときに残酷であるとだけいっておこう。1989年の『Secret Origins Special #1(原題)』のなかで、オズワルドのことを初めて「ペンギン」と呼んだのはシャーキーというあだ名の男の子だったことが明かされている。そして、大人になってから、コブルポットは彼にそのことを大いに後悔させることになるのだった、とも。『Penguin: Pain and Prejudice(原題)』のなかではオズワルドの物語をもう少し深く掘り下げており、そのなかで彼が自分の兄たちからいじめを受けていた描写が含まれている――ひとりずつ、彼の手によって殺されるまで。このことから、ペンギンは昔から悪い鳥であったといっても問題なさそうだ。

色鮮やかな犯罪者から殺人ギャングへ

ペンギンは、ゴッサムにはびこる犯罪者のヒエラルキーにおいて興味深い位置にいる。ジョーカーやリドラーのような派手な犯罪者たちのなかに入っても違和感がないが、ゴッサムきってのギャングであるカーマイン・ファルコーネやサル・マローニのそばにいてもしっくりくる。さまざまな意味で、ペンギンはゴッサムの2つの地下社会の使者ともいえる立ち位置にいるのだ。しかし、昔からそうだったというわけではない。

初期の登場シーンでは、ペンギンはしばしば鳥に関係する犯罪を自分の傘と鳥関連のギミックを使いながら犯していった。しかし、ペンギンは自分自身を紳士的に装うことでほかの犯罪者たちと一線を画した。オズワルドはきっちりとした格好で、スマートかつ洗練された(と自分では思っていた)犯罪を心掛けていたようだ。

ペンギンのカラフルな悪役から確固としたギャングへの移り変わりの片鱗は、ジョン・オストランダー とジョー・ステイトン の1992年発売のグラフィックノベルである『Penguin Triumphant(原題)』のなかでも垣間見える。この物語では、オズワルド・コブルポットは犯罪集団の一員となっており、「まっとうなビジネスパーソン」のふりをしながら裏で株式市場を操作している。その流れでゴッサムの一流資産家たちと接触するようになる。ブルース・ウェインはそんなペンギンの姿を上流階級の社交場で目撃するようになり、嫌悪感を覚える。ペンギンはこのコミックスの最後には捕まり、投獄されるが、このときの犯罪は彼の次なる大きな企ての序章になっているのだった。

『Detective Comics #683(原題)』では、オズワルド・コブルポットはアイスバーグ・ラウンジというナイトクラブの経営者として登場する。この経営者としての地位の確立は、彼のキャラクター設定のなかでも大きな部分を占めるようになる。ひょっとすると、彼の持つ傘よりも意味ある設定かもしれない。

アイスバーグ・ラウンジは、密売から武器取引、さらには人身売買まで実にさまざまな違法行為の巣窟となっている。そのため、ここでの経営者としての地位は、ペンギンが初登場したときから熱望していたものを彼に与えることになった。そう、権力だ。アイスバーグ・ラウンジでは彼はまごうことなき王であり、その事実はゴッサム・シティの多くの犯罪王たちに認識され、また尊重されている。しかし、この変化にもかかわらず、彼はジョーカーやスケアクロウといった「輩(やから)」と共謀することもためらわない。ただし、目的の犯罪が終われば即座に手を切るため、彼らとともにアーカム・アサイラムへ行くことはまずないだろう。

コブルポット市長

1966年以来、ペンギンはゴッサム・シティ・ホールに執着をしている。というのも、オズワルド・コブルポットはさまざまなマルチバースにおいて何度も市長の座を得ようと奔走してきた。初めての試みは1966年にテレビ放送されていたバットマンのアニメ番組においてだ。当時、ペンギンは市長選で不正なキャンペーンを行っていた。対抗馬は(もちろん)バットマンで、政治の歴史上、最も間抜けなテレビ討論が2人によって繰り広げられたのだった。この事実は今後の流れ的にも留意すべき点だ。

ペンギンは1992年の映画『バットマン リターンズ』のなかでも市長選に出馬し、落選している。この作品のなかでは、コブルポットの裏でマックス・シュレックという大富豪が糸を引いていた。彼は、自分の言いなりになってくれる市長を求めていたのだ。最終的に、ペンギンが支持者たちをバカにする音声をバットマンが流したことで票を失い、またしてもオズワルドの市長への道は断たれるのだった。

「ゴッサム」シーズン3でペンギンは再び市長選に立候補し、なんと勝利する。しかし、彼のシティ・ホールでの任期は、彼とリドラーの対決のせいで満期を迎える前に終わってしまう。オズワルドは「Batman Adventures(原題/『バットマン』アニメシリーズの続きとなるコミックシリーズ)」のなかでもゴッサムの市長選で勝利しているが、それはクロック・キングが裏で操作していたためであることが判明する。より最近のものだと、『バットマン:アースワン』というグラフィックノベル内でもコブルポットは市長として描かれている。

メインストリームのコミックスの続きのなかでは、オズワルドの市長への憧れは2013年まで見られなかった。ヴィランたちが街を乗っ取ろうと目論んだ際、オズワルドは自身をゴッサムの新市長として宣言するも、『フォーエバー・イービル』のスピンオフ『Forever Evil: Arkham War(原題)』において、バットマンがまたしても彼を阻止することに成功する。『Catwoman: Election Night(原題)』のなかではより正攻法なキャンペーンで戦ったが、その際もやはりダークナイトに阻まれる結果となっている。

つまり、どのマルチバースであろうと、オズワルド・コブルポットは常にゴッサムの市長の座を狙っているのだ。

恋に落ちたペンギン

オズワルド・コブルポットの心の大部分は憎悪でできているかもしれないが、少なからず人を愛する心も残っている。しかし残念ながら、完璧な犯罪者としての彼の経歴のせいでなかなかロマンスのほうはうまくいっていない。

『Superman's Girlfriend Lois Lane #70(原題)』のなかで、ペンギンはキャットウーマンにプロポーズする。キャットウーマンは彼のプロポーズを受けるふりをしてから、ペンギンを攻撃する(実はキャットウーマンは変装したロイス・レインだったので、オズワルド・コブルポットとロイス・レインはシルバーエイジのなかで数秒間、結ばれていたことになるのだ)。『Batman Annual #11(原題)』のなかでは、オズワルドはドヴィーナ・パートリッジという女性に惹かれる。オズワルドは獄中、ドヴィーナにラブレターを何度も書き、彼女と結婚するために犯罪界から身を引くことを決意する。しかし残念ながら、その後ドヴィーナの姿は描かれることはなく、ペンギンが犯罪界へ逆戻りしていることから2人の恋は実らなかったと思われる。

「ゴッサム」シーズン3では、ペンギンはリドラーに恋をしたが、彼の嫉妬心により、いかなる関係も結べないまま終わってしまう。ニグマ(リドラー)がイザベラという女性と交際を始めた際、オズワルドは嫉妬から彼女を殺害しようと企てる。リドラーはこのことに気づき、そこから2人の関係は悪化の一途をたどるのだった。

オズワルドはその後『Penguin: Pain and Prejudice(原題)』シリーズのなかでカサンドラという盲目の女性と恋に落ちた。彼は、彼女の前では犯罪者としての自分を隠し通そうと努めた。また、自分の本当の見た目を嫌われることを恐れ、カサンドラに顔を触られないよう、常に努力した。当然のことながら、この恋も実らず、悲劇的かつショッキングな形で終わる。カサンドラがなんとかしてオズワルドの顔に優しく触れた瞬間、オズワルドは間髪入れずに彼女のことを刺してしまうのだ。皮肉にも、彼女が最後に言った言葉は、オズワルドの顔についての褒め言葉だった。

ペンギン俳優たち

ペンギンがDCワールドに登場してから、もうかれこれ80年ほどになるが、彼を実写で演じた人物は最新のコリン・ファレル含め、たったの4人だけだ。バージェス・メレディスは誰もが知る通り、1966年のバットマンのテレビシリーズおよびそのスピンオフ映画で初めてペンギンに実写としての命を吹き込んだ俳優だ。メレディスは演技であのアイコニックな鳥のような鳴き笑いを取り入れ、それが以降のコミックスにも反映されていった。面白いことに、メレディスはペンギンの役をテレビシリーズ「ザ・モンキーズ」のなかでも再現しており、DCユニバースの幅の広さを我々に見せつけている。

ダニー・デビートは1992年の映画『バットマン リターンズ』において、危険なイメージたっぷりのオズワルドを演じた。デビート版のペンギンは幼いころに両親に見捨てられ、結果として彼は世間に対して攻撃的な態度を取るようになったのだ。ペンギンは危険なサーカス集団を率い、バットマンに止められるまでゴッサム・シティを恐怖に陥れた。

ロビン・ロード・テイラーはテレビシリーズ「ゴッサム」のなかで、より若いころのペンギンを演じた。オズワルド・コブルポットは初め、ギャングのボスであるフィッシュ・ムーニーの下級の傘持ち係の少年として登場するが、シリーズの終盤に差し掛かるころにはゴッサムの地下社会の中心人物までのし上がってくる。テイラー演じるコブルポットは恋、喪失、勝利そして悲劇を体験することでキャラクターに一層の深みを与え、そんな彼の姿を見守る視聴者のなかに同情さえも生み出した。視聴者によっては、「ゴッサム」こそ、ゴードンやバットマンのみならず、ペンギンのはじまりの物語でもあると主張しているほどだ。

ペンギンは常に予測不能で、危険かつ狡猾だ……それゆえ、どれほどの騒ぎを今後も見せてくれるのかが楽しみでならない。

ライター:ジョシュア・レイピン=ベルトーネ
Xアカウント(英語のみ):@TBUJosh