『アクアマン/失われた王国』のブルーレイ&DVDがもうすぐリリースされる。5月22日、アーサーと彼の異父弟 (映画の設定)オームが協力し、極悪非道のブラック・マンタと再び闘う。今回のワイルドなびしょ濡れアドベンチャーでは、あの仲の悪い兄弟がまさかの共闘という形をとるわけだが、これを機にぜひコミックスに描かれた2人の複雑な歴史を振り返ってみたい。はたしてアーサーとオームは過去に仲が良かったことはあったのだろうか?それとも相変わらず、兄弟というより敵同士だったのか?さあ、2人の過去へと飛び込んでみよう。
アクアマンが大きな水しぶきをあげ華々しくデビューしたのは1941年の『More Fun Comics ♯73(原題)』だ。しかし、彼の弟であり、お馴染みの宿敵であるオームが登場するのはそこから20年以上もあとの、1963年の『Aquaman #29(原題)』である。そこで、オーシャンマスターという最大の悪役がこのアドベンチャーシリーズにハリケーンのごとく誕生したのだった。
アイコニックな紫とオレンジの鎧を身にまとい、アメリカ滅亡を目論むオーシャンマスターは、アクアマンと彼の相棒であるアクアラッドにとって大きな脅威となった。しかし、この悪役の真の意味での脅威は、彼が身にまとう鎧以上に恐ろしいものだということがのちになって判明する。2人が文字通り「水面下」での戦いを重ねていくうち、アクアマンは、このオーシャンマスターが単なる宿敵ではないということに気づく。何を隠そう、彼こそが自身の異母弟(コミックの設定)オームであったのだ。オームの母親は人間だったため、彼は七つの海を束ねる力を持っていなかった。幼いころ、アーサーはこの可愛くない弟に親切にしようとしたが、オームはある事故を機に姿を消してしまう。そんな2人が次に再会した時には、弟はオーシャンマスターになっていたのだった。
このダイナミックな登場により、アーサーと彼の弟との何十年にもわたる確執の物語はDCユニバースでも大きな要素になり、その流れは今日に至る。そして誰もが知っている通り、年月を経てオームの設定は力を持たない普通の人間からアトランティスの王へと変わっていくのである。しかし、ひとつだけ変わらなかった設定がある。それは、異母兄弟(コミックの設定)の確執である。アーサーの悩みの多くは弟との関係からによるものであった。アーサーは過去でもオームにとって最高の兄とはほど遠かったこともあり、2人の溝は一層深いものになっていくのだった。
このシンプルながらも激しいライバル関係はずっと続くように思われたが、『クライシス・オン・インフィニット・アース』ですべてが変わった。この過去最大のクロスオーバーにより、ほとんどのDCヒーローたちはある意味生まれ変わることになる。『クライシス・オン・インフィニット・アース』ののち、オーシャンマスターは1986年の新たな『Aquaman #1(原題)』のなかでアクアマンの敵対者として紹介されている。この物語のなかではオームとアーサーは2人の共通の父であるトム・カリーについて口論を繰り広げる。「アーサー」――オームの呼び方を真似するなら、「アーティー」――は、ここでは弟が激昂している理由が分からない、弟想いの兄として描かれている。一方、オームのほうは、自分たちの対立は個人的なものというよりも、過去の伝説で予言された兄弟同士の殺し合いに起因するものだと説明する。しかし、このミニシリーズが終わるころにはオームは死亡したとみられ、同時にこの新たな物語も終わりを迎えた。
再び2人の関係性が見直されたのは、1994年の『Aquaman: Time and Tide #3(原題)』であった。ピーター・デイビッドが描いたこのミニシリーズのなかでは、カコという先住民族の女性が、同じ先住民であるオームという男性の代わりに若きアーサーと恋に落ちてしまうという話になっている。怒ったオームはカコを襲い、それをきっかけにさまざまな悲劇が起こり、結果的にアーサーはカコを守るために彼女のもとを去る、というものだ。この書き換えられた物語から、新たな設定が創り出された。それは、アーサーとオームは普通の人間であるトム・カリーの息子ではなく、魔法使いアトランの隠し子であった、という設定だ。しかし、これほどの変更がなされたにもかかわらず、やはり1986年のシリーズから引き継がれた設定がある―。そう、兄弟の確執である。2人はここでも、アトランティスの主権をかけて戦い、兄弟の対立という古代の予言を再現することになるのだった。
2000年代前半、アーサーが死んだと思われてから、オームは海から上がり、自分をジャスティス・リーグと対立するように仕向けたアトランティスの主権を再び握ろうとする。これにより、彼は正式にDCにおける主要な悪役のひとりに位置づけられるようになる。もちろん、アーサーは実際には死んでいないのだが、オームはまたしても新たな企てを立てていた―。自分がアクアマンになり、そしてアーサーがオーシャンマスターになるように世界を作り変える、というものだ。結果的に、この物語でも兄弟は戦うことになり、2人の溝は一層深まることになる。オームは、アクアマンの肩書を使ってサブディエゴの住民たちを抑制しようとし、アーサーはまたしてもヒーローらしく彼らを救い出し、弟を倒そうとするのだった。
その後、ほとんどの連載ものがその道を辿るように、「THE NEW 52!」の計画によって多くのDCヒーローたちは再び大きく作り変えられることになった。アーサーとオームも例外ではなく、2人のライバル関係はまたしても再構築されることになる。今度は、オームは純血のアトランティス人になり、アーサーは再びトム・カリーの息子に戻った。そして、今度は彼らの共通の母親アトランナがアトランティスの王家の血筋を引くものとして描かれたのである。異父兄弟(「THE NEW 52!」での設定)たちは再び対立し、王座をめぐる争いは一層アトランティスとその覇権を握ることを中心とした物語へと変化していった。しかし、面白いことに、ここでこの兄弟の関係にかすかな変化が生じる。なんと、今までのコミックス史上で、2人の距離が最も縮まることになるのだ。アーサーはバルコと組み、アトランティスに再び戻って王座を奪還するのだが、その際、アーサーはオームと取引をする。それは、オームに王座を引き渡す代わりに、地上とはかかわらないことを約束させるというものだった。だがもちろん、ここですべてが円満に終わるはずもなかった。バルコの陰謀により、兄弟はまたしても王座をめぐり争うことになる。そして、その関係性が今も続いているという具合だ。
しかしながら、最近になり、また2人の関係性に変化が見られた。『Aquaman/Green Arrow: Deep Target(原題)』のなかで、アーサーとオームがいっときの間だけ親しい関係にあり、戦うのでなく肩を並べて、アトランティスを統治しようとした時期があったことを示唆する描写が加えられたのだ。ほんの短い間ではあったが、この新事実により、2人の兄弟の関係性に新たな側面が加えられた。これにより、将来的に2人の関係性を深堀できる糸口が未来のクリエイターたちに与えられたことだろう。『アクアマン/失われた王国』にあるつかの間の共闘により、DC史上最も馬が合わない兄弟の気まずい信頼関係の扉が開かれることになるのだろうか?ジェイソン・モモアとパトリック・ウィルソンの2人をぜひ、見てみよう!
『アクアマン/失われた王国』(ジェイソン・モモア:アクアマン役、パトリック・ウィルソン:オーム役)は好評デジタル配信中。5月22日(水)ブルーレイ&DVDリリース予定。詳細は公式ページをチェック。
ライター:ロージー・ナイト