DCコミックス

アトランティスへの帰還~ジェームズ・ワンが語るアクアマン~

正真正銘のコミックブックファンであればご存じだとは思いますが、奥深く多様なコミックスの歴史には、毎回スーパーヒーローが登場してきたわけではありません。今あなたは自分の耳を疑ったことでしょう。にわかファンやそのおばあちゃんでさえも聞いたことがあるのは、マントやかぎ爪、ガントレットが登場する物語。しかし、DCにはホラー系コミックスだけで構成されたシリーズが存在し、その歴史は1950年代初頭にまでさかのぼります。

みなさんはこの話が2018年に公開された映画『アクアマン』となぜ関係があるのか疑問に思っていることでしょう。「ソウ」、「インシディアス」、そして怪奇現象というテーマをさらに極めた「死霊館」シリーズで有名になり、多くの作品を世に出してきた監督が、ついにスーパーヒーロー映画デビューしたのです。『アクアマン』はDCスーパーヒーロー映画史上で最多の興行収入を打ち立てる大成功を収めました。この映画を観ると(みなさんはもうすでに観ていると思いますが、もしまだの人がいれば今すぐに観てください!)、監督のルーツが垣間見える箇所(例えばトレンチと戦う恐ろしいシーン)に気づくでしょう。そして、潜水艇でワイルドにもスピードに乗って水中を駆け巡るシーンの完成度はあの映画にも負けていません。

ではみなさん、さっそく『アクアマン』の全容をこの記事に収まるぎりぎりまでジェームズ・ワン監督に聞いていきましょう。

ジェイソン・モモアが演じたアクアマンというキャラクターのどのような要素に引かれ、この映画を監督したいと思ったのでしょうか。

このプロジェクトに興味を引かれた点は、これまでアクアマンというスーパーヒーローの起源を描いた作品がないことでした。少なくとも、これほどのスケールで映画化されたのは今回が初めてです。多くの人はこのキャラクターが一体何なのか、どこから来たのか知りませんでした。テレビシリーズ「Super Friends(原題)」で、お調子者として描かれた姿ぐらいの印象しか残っていないと思います。この作品の制作で一番楽しかったのは、キャラクターがもつイメージを一新して、タフでクールなカッコいい姿を世界にお披露目できたことです。ジェイソンは最高のアクアマンです。観客は彼が演じるアクアマンのアウトロー的な側面にも魅了されたことでしょう。

この作品に惹かれた大きな理由の一つは、ジェイソン・モモアと協力して、このキャラクター自身の物語を映画化することでした。もう一つの理由はもちろん、未知の世界へのクレイジーな冒険を観客に体験させることができる点です。観客はアトランティスを含む七つの王国、そしてそれぞれの文化さえも映画内で体感できます。映画監督としてこれらの要素はとても魅力的でした。

ではこの映画を作ることは、監督として、そして一人の映画ファンとしても冒険に出るような感覚だったのでしょうか。

まさにその通りです(笑)。長年、新しい世界を映画のなかで創り出したいと思っていたので、夢のようなプロジェクトでした。以前監督したスケールの大きな作品『ワイルド・スピードSKY MISSION』の製作プロセスとも違う点がいくつかありました。考えるなかで最も巨大なキャンバスに、私の想像から生まれた海中に広がる世界を映像化することができました。

これまで制作してきた映画と比べても、『アクアマン』のプロダクションデザイン工程は一番楽しかったです。神秘的な異世界アトランティス帝国の景観、そこに住む人々や生物、環境から独自のテクノロジーまで全てをデザインしました。本当に素晴らしかったです。想像力が尽きるまで、誰も見たことがないものを生み出し続けられたのですから。

『アクアマン』は視覚効果が大きな割合を占める作品ですが、監督が得意とする撮影方法は、過去の作品で多用している画期的なプラクティカル・エフェクト(天候や自然現象などを撮影した映像を使った特殊効果)でしたよね。今回の映画制作にもその手法を取り入れたのでしょうか。

はい。これまでのキャリアでは必ずプラクティカル・エフェクトは使ってきましたし、私自身が大好きな撮影方法でもあります。そのため、視覚効果が大部分を占める作品を撮影するのは初めての試みであり、大きな挑戦でもありました。ただ、違いに慣れることで最終的には楽しむことができました。想像したものを自由に創り出せることが、このような作品を監督する一番の醍醐味です。

そうはいっても、セット内でプラクティカル・エフェクトが成立するシーンがあれば毎回使っていました。この映画にはユニークで面白い生物たちが数多く登場します。俳優に特殊スーツを着せて、これらの生物を演じてもらうようにしました。可能な限りこの手法で撮影を行い、後に視覚効果を加えることで映像のクオリティが段違いに上がります。しかし、すべての映画制作用の機材がそろっていたとしても、あくまでもそれは道具に過ぎないという考えが大切なのです。技術発展した現代でも映画作りで一番大切なのは、観客の心を惹きつける物語と登場人物ですから。

作品のなかのアクアマンことアーサー・カリーが歩む人生の旅について教えてください。

私がアクアマンを好きな理由の一つに、スーパーヒーローでありながら自分の居場所がないと感じている点があります。彼は2つの世界の間で板挟みになっているのです。地上の人間はアトランティス人である彼を信用せず、アトランティス人たちもまた、地上で暮らすアクアマンを信用しようとしません。アーサーは冒険するなかで本来の自分を受け入れてもらうために奮闘します。そして最終的には、ありのままの自分を受け入れることで自信をつけるようになるのですが、ヒーローが歩む物語としてはとても興味深い内容だと思います。

はぐれ者としての側面をもつアクアマンを演じるのに最適な役者がジェイソンでした。彼自身がハワイ生まれでアメリカ中西部育ちなので、アクアマンに親近感を感じたはずです。私もマレーシア生まれですが、オーストラリアで育った頃の影響を強く受けているので気持ちはよく分かりますね。そのうえ今はアメリカに住んでいます(笑)。今の時代に合った題材で共感できる人が多いだろうと感じました。

多くのコミックスファンたちはヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世が演じるブラックマンタの銀幕デビューを楽しみにしていましたよ。

みなさんがブラックマンタの姿を最初に目にするのは映画の序盤ですが、この時点でデイビッド・ケインはまだブラックマンタにはなっていません。父と一緒に雇われ海賊たちを引き連れて、潜水艦をハイジャックしようとします。このシーンで初めてアクアマンとデイビットは対面するのですが、戦いのなかでデイビットの父親は命を落とすことになり、その結果、彼はアクアマンに復讐を誓うのです。これは、みなさんもよく見かける復讐劇の形でしょう。この瞬間からデイビッドはアクアマンを地球から消し去ることだけに執念を燃やして生きていくのです。しかし、この映画の真のヴィランはブラックマンタではなく、パトリック・ウィルソン演じるアトランティスの王、アーサーの異父兄弟オームです。

アクアマンとオームの壮絶な戦いを撮影した際の話を聞かせてください。

ジェイソンとパトリックが戦う姿を描くのは非常によい経験でした。なかでも、舞台は水の中にあるアトランティスだったので、誰も見たことのないような戦闘スタイルを形にしていったことが心に残っています。スタントチームと視覚効果チームが一丸となって、2名のキャラクターが見せる迫力満点の「王の決闘」シーンを考えていきました。戦いの舞台として選ばれたのは海中火山の火口に建てられたコロシアムでした(笑)。兄弟がアトランティスの王座を巡って、海流と溶岩に囲まれながらクレイジーな水中戦を繰り広げます。水の中なので重力の影響を受けません、そのため宇宙空間を飛び回っているような画になりました。

そのうえ、パトリックにはとんでもないセリフを与えてしまったんですよ。「地上との戦争は避けられない 7つの海の怒りを思い知らす」とね(笑)。でも、長年の付き合いで信頼を置いているパトリックなら迫力のあるセリフにしてくれると思っていたんです。上手くこなしてしまうパトリックはさすがです。

最後の質問です。公開当初、『アクアマン』を初めて見る人たちに、この映画を通してどのような体験をしてほしいと考えていましたか。

私が子どもの頃から愛してやまなかった王道のアクションアドベンチャー映画のようなストーリーを届けたいと思っていました。壮大な物語やロマンス、ヒューモアも盛りだくさんで心躍るような冒険の数々。だからこそ映画を観る人たちには、登場人物たちとジェットコースターに乗っているような気分になってもらい、アーサーと共に歩んだ冒険から刺激を受けて劇場を後にしてほしいと思っていましたよ。