DCコミックス

王の軌跡~ジェームズ・ワンに着想を与えたアクアマンの過去~

77年にわたりコミックスで描かれてきたアクアマンのイメージはさまざまです。波乱の多い海底王国を治める不屈の王であり、ヒゲ面の長髪で手に銛を持つ反逆者。ときには、海の守護者でありながら相棒のような存在。ジャスティス・リーグのなかではあまり信頼できないメンバーです。それから…そう、巨大なタツノオトシゴにまたがり魚と会話する姿はお馴染みですね。DCコミックスの他のヒーローとは違い、アクアマンの歴史は一貫性に欠けているともいえます。

しかし、これは必ずしも悪いことではありません。映画『アクアマン』の監督によれば、むしろ一貫性を無視したところこそがアーサー・カリーの魅力の1つだといいます。

ジェームズ・ワン監督は、最近のイベントで「私はジェフ・ジョーンズとイヴァン・レイスが一緒に手がけた作品の大ファンです」と明かし、次のように語っています。「精神やストーリーの多くはジェフ・ジョーンズの『NEW52』にかなり影響を受けています。それであって、それより前の作品にもたくさん刺激を受けました。」

「時代をさかのぼってさまざまなキャラクター像と世界観から着想を得ました。私はシルバーエイジのアクアマンの大ファンで、ニック・カーディのコミックスが大好きなんです。『スーパーフレンズ』に影響を与えた初代のシリーズなんかも最高ですね。こうした昔の原作を避けるのではなく、しっかりと受け入れて、自分なりの新しい作品を作りたいと思っています。原作のコミックスが持つレトロな雰囲気と非常に魅力的なキャラクターが大好きなので、映画のなかにも何とか取り入れようと模索しているんです。」

キャラクターとしてアクアマンが最も面白いのは、海底王国アトランティスの王座を得るために身一つで挑むところです。アトランティスは地上の世界に対する不信感があるために、地上の世界との関わり方をめぐって意見の対立が生じ、それが火種となって革命や戦争がしばしば起こることも。この海底世界の策略こそが原作ファンにとっては大きな魅力なのですが、多くの人はこうした背景の存在すら知りません。もちろん、これがアクアマンというキャラクターを特徴づける重要な要素であることも。ワン監督の映画『アクアマン』で初めて知ることになるかもしれません。

映画の予告編を見ると、アクアマンに対する監督の深い理解が見て取れるとともに、この映画がアトランティスの伝説に基づいていることが分かります。

ワン監督は、ファンにはお馴染みのあらすじを次のように話してくれました。「アーサーとオームは同じ母親の元に生まれました。オームの父親はアトランティス王です。王の死後、その息子であるオームが王位を継承しました。メラの父親はドルフ・ラングレン演じるネレウスで、ジベル王国の王。オーム王とネレウス王は休戦中の状態にあるのです。」

『アクアマン』を海底の「ゲーム・オブ・スローンズ」だと単純に決めつける人がいるかもしれませんが、それは的外れでしょう。少なくともそれだけの作品ではありません。

ワン監督は自身のファンタジーな世界観への影響について聞かれ、こう答えています。「子どもの頃から私にインスピレーションや影響を与えてくれたものが土台になっています。レイ・ハリーハウゼンの古典的名作からスティーヴン・スピルバーグの初期の作品までさまざまです。すでに公言しているように『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』も非常に印象的で、キャラクター同士の絡み方がすばらしい。私の作品はそうした影響が混ざり合っています。今回の映画制作においてとても印象的だと感じたのは、さまざまな“味”に挑戦することができた点です。この映画には実にいろんな味わいがあり、アクアマンの神話と彼の世界によってその味がひとつにまとまっているのです。」

さまざまな作品の影響を受けながら、ストーリーに一貫性を持たせて原作と離れすぎずバランスを保とうとすれば、ときに独創性がなくなってしまうこともあるでしょう。しかし、「ソウ」、「インシディアス」、「死霊館」といった代表的なホラーシリーズや『ワイルド・スピード SKY MISSION』などの大ヒット作を手がけてきたワン監督はこの挑戦を楽しんでいるようです。

「私たちは映像表現の構想に何年も費やし、ほどよいバランスを模索しました。“おい、この映画を観てくれよ。華やかで最高な大作だろ”と鼻につく感じではなく、あくまで原作のトーンに忠実であり続けたかったんです。」と監督は言います。また、ワン監督は次のようにも語っています。「アクション満載の破天荒な冒険というイメージはアレンジがしやすいものでした。もっと気軽に楽しめる娯楽作品にすることもできるし、必要ならばもっと怖い要素を加えることもできます。さっき言ったように、アクアマンのストーリーと世界は多種多様な味わいを加えるのに適しているからです。海はいつも、私たちに実に興味深い場所だと思わせてくれます。驚きと神秘に満ちていながらも、とても恐ろしくもある。この映画には両方のコンセプトを取り入れることができました。」

驚き、神秘、恐ろしさ。こう聞けばワクワクするファンも多いでしょう。しかし、『スーパーフレンズ』での設定のように、アクアマンはすべての問題を、クジラを呼んで解決するキャラクターだと認識している世代もいます。ワン監督にとって、このイメージを覆すことがアクアマンの映画を作る醍醐味のひとつです。

「元々とてもクールなキャラクターはすでにやり尽くされた感じがするんです。だからこそ、アクアマンの負け犬的な存在にすごく惹かれました。」と監督は言います。

「キャラクター自体というよりも、そんなふうにアクアマンが位置づけられてきたことに魅力を感じます。すでに多くのバージョンが作られてきたバットマンのような王道なキャラクターよりも、アクアマンのようなユニークなキャラクターを題材にするほうが、私にとっては特別なんです。誰も大きなスクリーンで見たことのないキャラクターを作れるなんて、本当にワクワクします。」

興奮の熱はファンの間でも広がりを見せています。タツノオトシゴの扱いに慣れている人もそうでない人も、待ちに待った波に乗る準備を!