海外TVシリーズ「ウォッチメン」をデジタル先行配信中です。また、6月3日(水)よりブルーレイ・DVDを発売、DVDレンタルを開始いたします。
本作は「ゲーム・オブ・スローンズ」のHBO®と、『ジョーカー』のDCが最強タッグを組み、アメコミ最高峰ともいわれる原作「ウォッチメン」から34年後の物語―。現代アメリカを新たに描き出す、異色の歴史改変SFアクションだ。
6月3日のブルーレイ・DVD発売、レンタル開始に向けてお届けしてきたコラム情報【WatchmenJournal】が最期を迎える。Vol.3は米国HBO®「ウォッチメン」オフィシャルサイトに掲載されている"Peteypedia"についてだ。全文英語のみの特設ページをアメコミ・エディター柳亨英が一部解説し、「ウォッチメン」ファンの間で話題となっている"あの全身タイツ男"の正体に迫る。
DCTVシリーズ「ウォッチメン」の魅力のひとつは、情報量の多さだろう。背景の看板や、新聞の見出し、言葉ひとつにも何かしらの意味が隠されていて、見ているものは気が抜けない。そこに更なる情報を加えているのが、アメリカ放送時に更新されていた米国HBO®「ウォッチメン」オフィシャルサイト特設ページ"Peteypedia"*1である。このサイトでは、本作の中で語りきれなかったことや、原作コミックの世界観との繋がりが垣間見える内容などがレポートや記事の形で掲載されており、本作にさらなる深みを与えている。
■米国HBO®「ウォッチメン」オフィシャルサイト特設ページ"Peteypedia"とは―
例えば、第1話に関連して公開された資料「MEMO : The computer and you」*2では、FBI エージェントに向けた通達文が掲載されている。これを読むと、FBI内でコンピュータが使用されることになった経緯や、採用されたコンピュータがDr.マンハッタンの技術を使用していないことなどが書かれている。というのも、本作の世界では、いまだにコンピュータが一般的ではなく、かつDr.マンハッタンが開発に携わったものへの警戒心が強い(これはオジマンディアスが流布した嘘で、ガンにかかりやすくなると噂していた)。このような技術に対する警戒心が強い最大の理由は、1985年11月2日の巨大イカ事件で、ニューヨーク市民の半数が命を落とし、多くの人々が心身ともに傷を負ってしまったからだろう。ルッキングラスこと、ウェイド・ティルマンのトラウマについて描かれる第5話を見てもらえば、より理解していただけるはずだ。イカが発した精神波による死因が最も多かったとされており、そのせいで電磁波などへの恐怖心が人々に強く植え付けられ、我々の世界のようなインターネットの発展やスマートフォンなどの技術革新が行われなかったのである。
*1:https://www.hbo.com/peteypedia
*2:https://www.hbo.com/content/dam/hbodata/series/watchmen/peteypedia/01/the-computer-and-you-memo.pdf
■ヒーローを誰よりも知る男、FBI 捜査官ピーティ
さらに、我々の世界では、プレゼンテーションソフトが捜査会議で使用されることもあるだろうが、劇中では、いまだ1枚1枚の写真を操作してプレゼンテ ーションが行われている。このスライドを操作していたデイル・ピーティは意図してか、偶然か、タルサ警察署長ジャッド・クロフォード殺害事件の捜査を担当することとなったFBI捜査官、ローリー・ブレイクに相棒として選ばれる。そのピーティが集めた資料ファイルという体で基本まとめられているのが"Peteypedia"だ。
ピーティは大学で歴史を専攻し、博士号を取得。アメリカ史上のヒーローやマスクをしたヴィジランテ(自警団)、ミニッツメン やクライムバスターズが専門で、特にロールシャッハが残した日誌、"ロールシャッハ・ジャーナル"について詳しい。ロールシャッハはかつてクライムバスターズの一員で、巨大イカ事件に至るまでの悲劇のきっかけとなったヴィジランテである。この事件が起きる前、コメディアン=エドワード・ブレイク(ブレイク捜査官の父)の謎の死から、当時の仲間たちへ危険が迫っていることを警告するのだが、その過程を主に記していたのが "ロールシャッハ・ジャーナル"である。ロールシャッハはヴィジランテとしてかなり手荒な活動が目立ち、自警行為が規制された原因の1人でもあるが、真実への探究心の強さはどのメンバーよりも強かった。ストーリーの鍵となる白人至上主義の過激派集団、第7機兵隊のメンバーはロールシャッハのマスクを模したものを着用しているが、ロールシャッハがヴィジランテであったことを考えると、なぜ彼のようなマスクをしているのか疑問に思えてこないだろうか。そういったことへの推察や、劇中に度々登場するドラマ「アメリカの英雄:ミニッツメン」が歴史的にどう間違っているかなど、各話に紐づく様々なレポートが "Peteypedia" には掲載されている。
ピーティの所属は対自警団の部署だが、ここまで深い研究をしているのなら、ただ調べるだけで気が済まなくなるのではないだろうか。自分自身でもヴィジランテを"体験"してみようとする可能性もあるのではないか...。 "Peteypedia"最後のファイルには、FBI副長官からのレポートとして、ピーティの辞職が報告されている。また、デスク周りから大量のキャノーラ油も発見されたらしいのだが、これは果たして...。
文/柳亨英