「ブラックライトニング<シーズン1>」DVD好評発売・レンタル中、デジタル配信中

2019.02.08 DCコミックス, 海外ドラマ

エンタメ界を席巻するブラック・パワーの波がDCにも!"ブラックカルチャー"の観点から、キーポイントを徹底解説!

DC初の黒人主役ヒーロー"ブラックライトニング"の活躍を描いた電撃アメコミアクションにして、劇中にはブラックコミュニティにまつわる様々な事象が登場します。この度、ヒップホップを中心にブラックカルチャー全般の執筆・翻訳を手掛けている小林雅明さんが、作品をより深く味わうためのキーポイントを解説いたします。

「ブラックライトニング」には第1話の最初の場面でハッとさせられる。ニーナ・シモンの歌う"奇妙な果実"がいきなり聞こえてくるからだ。この曲名と歌詞は、人種差別が公然と行われていた1930年に撮られた1枚の写真に触発され書かれたもので、白人のリンチにより殺され吊るされた黒人たちの亡骸を、樹木に実った「奇妙な果実」と喩えたのだ。

ドラマは人種差別に抗議するこの曲を冒頭に置くと、タイトルロールであるガーフィールド高校の校長ジェファーソン・ピアースが豪雨の中、愛娘二人をクルマに乗せ帰路につく途中、白人警官に強制的に停車させられ、言うことをきかなければ撃つぞ、と脅される場面へと転じる。現実に、黒人であるというだけで警官に目をつけられ、不当な暴力を振るわれ、場合によっては殺害されてしまう事件が過去数年の間だけでも何度も発生し、「ブラック・ライヴス・マター(黒人の生命が問題だ)」を合言葉に大規模な抗議活動が展開されたのは記憶に新しい。また、この先のエピソードには、2017年8月にシャーロッツヴィルで発生した白人至上主義者とその反対派の衝突を思い出さずにはいられない場面も出てくる。さらに、この物語の根幹にあるのは、あの「アメリカの歴史上最も忌まわしい生体実験」の記憶ではないのか、との確信が強まってゆく。それは1932年から1972年までの実に40年間にわたりタスキギー大学に於いて被験者を黒人男性に限定して行われた梅毒の臨床実験のことだ。

だからといって「ブラックライトニング」は白いアメリカの糾弾に終始するだけではない。そこで効いてくるのが、宿敵の一人トビアス・ホエールがアルビニズムの黒人だという設定だ。彼は先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患を患っているため肌には色がない。同じ黒人なのになぜ白いと差別/排斥され、同胞への憎悪を煮えたぎらせた彼の存在そのものが黒人どうしの対立の象徴と化している。しかも、トビアス役のマーヴィン・クロンドン・ジョーンズ3世(ラッパーでもある)自身がアルビニズムの黒人なのである。

対するピアース校長は、保護者への説明の場でも、オバマ前大統領が好んだキング牧師の演説の一節「道徳の道は長いが、正義に向かっている」を引用するような温厚な非暴力主義者だ。そして彼の娘で長女のアニッサは、妹のジェニファーから「ハリエット・タブマンさん」とからかわれる。それは、19世紀に、米南部の奴隸を北米やカナダに逃がす手助けを行った秘密結社「地下鉄道(アンダーグラウンド・レイルロード)」の指導者の一人として活躍した実在の女性奴隸解放運動家の名前だ。

「ブラックライトニング」は、ブラックコミュニティの抱える記憶と問題をスパークさせ、ポジティヴなパワーに変換し未来を切り拓いてゆくのだ。

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