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    なぜ、ノーランが『2001年宇宙の旅』に入れ込むのか?映像研究家 岸川 靖が語る『2001年宇宙の旅』とクリストファー・ノーラン

    2018.12.13 ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信

    2018年12月19日(水)に、生誕90周年を迎える巨匠スタンリー・キューブリック監督の名作『2001年宇宙の旅』の製作50年を記念して、初となる4K ULTRA HDを発売いたします。また、ブルーレイもHDデジタル・リマスター化、新パッケージにて発売いたします。

    キューブリックがこだわり抜いた公開時の画質・音響も極限レベルまで再現された、作品初の4K UHDがリリースされるにあたり、映像研究家 岸川 靖によるコラムをお届けいたします。本年のカンヌ映画祭にて『2001年宇宙の旅』の70ミリプリント版特別上映でのプレゼンターを務めたクリストファー・ノーラン監督とのつながりを通して見る映像・音楽の魅力とは...

    『2001年宇宙の旅』とクリストファー・ノーラン

    映像研究家 岸川 靖

    ■体験する映画
    スタンリー・キューブリックは終末戦争を描いた『博士の異常な愛情』(64)を撮り終えて以降、地球外生命や人類の地球外での生活についてのテーマにとりつかれ、それを映画にする方法を模索した。やがて、そのテーマは小説家アーサー・C・クラークの協力を得て『2001年宇宙の旅』(68)として結実する。本作は、それまでの宇宙SF映画に多く見られた怪物などは登場せず、最新の科学考証に基づき、公開年(1968年)の33年後である2001年を舞台に、人類が宇宙で直面する出来事を描くことになった。
    製作にあたりキューブリックは、NASA(アメリカ航空宇宙局)をはじめ、アメリカ、イギリスの科学研究所や大学の研究機関、さらに各方面の専門家と密接な連絡をとり、人類がまだ見ぬ世界を構築するのに腐心したという。製作費は1,200万ドル(推定)、これは当時の邦貨に換算すると、約43億円だ。その製作費の大半は、セットや特撮に費やされたという。それだけに、宇宙、地球、月などの映像は、リアリティ溢れる素晴らしいものとなった。人類が史上初の月面着陸を果たすのは、本作公開の約1年後の69年であることを考えると、映像の先見性とリアリティには、ただただ驚嘆するしかない。また、それらのイメージを支えたデザイン、そして特撮技術もクオリティは高く、いまだ古びていない。
    ドラマチックに演出することを極力排除し、状況がストイックに淡々と描かれていく。ナレーションを用いて解りやすくすることもない。そのため、本作は、ドラマを観るというよりも、ドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥る。それは体験に近い。観終えた後に、何か凄いものを体験した......そんな気分になる作品だ。そうした感想を抱くことができる映画は滅多にない。

    ■ノーランと『2001年宇宙の旅』
    近年、この『2001年宇宙の旅』と似た感覚を味わえる作品が公開された。『ダンケルク』(17)である。監督は新生「バットマン」シリーズの立役者、クリストファー・ノーラン。『ダークナイト』(08)の冒頭の銀行強盗のシーンが、息が詰まるようなヒリヒリする演出だったように、『ダンケルク』もまた冒頭から観客を、その世界に放り込む秀逸な演出になっている。そのノーランが「SF映画の試金石」と言い、重要なSF作品として挙げているのが『メトロポリス』(27)、『ブレードランナー』(82)、そして『2001年宇宙の旅』なのだ。
    ノーランは2018年のカンヌ映画祭で、『2001年宇宙の旅』の70ミリプリント版特別上映(※その後、全米をはじめ日本でも公開された)でのプレゼンターを務めている(意外なことに、ノーランのカンヌ参加はこれが初めてだ)。彼はまた、同年1月「ロサンゼルス・タイムズ」紙のインタビューで、「自分の子供はまだ3〜4歳だったが、『2001年』を観せた」と語っている。なぜ、ここまでノーランが『2001年宇宙の旅』に入れ込むのか?彼を惹きつける魅力はどこにあるのか?その理由を問われたノーランの答えが興味深い。

    「子供の頃の、吸収力が高い時期に観せるべきだと思ったから。自分もそうだった。僕は7歳であの映画を観て、あれが良かったと思っている。映画に対して純粋でいられて、戸惑いながらも興奮をおぼえた。7歳の子供にあれが理解できるのかと思う人もいるかもしれないが、じゃあ大人なら理解できるのかと言われたら、怪しいのではないか。それなら、経験してしまうしかない。僕は『スター・ウォーズ』を7歳の時に観たが、僕の世代の人たちにとっての映画というものを、まるっきり変えてしまった作品だった。『2001年』は再上映を友人たちと観た。僕たちは皆、「よく解らなかった、でも面白かった」と言い合った。宇宙船とか、宇宙とか、地球からの離脱とか、そういったものを体で感じることができたから」(「ロサンゼルス・タイムズ」2018年1月4日電子版より)

    新世代の映画作りの旗手であるノーランは、『2001年宇宙の旅』の方向性を継承しつつ、娯楽性とドラマを両立させた『インターステラー』(14)を監督した。『インターステラー』には『2001年宇宙の旅』へのオマージュがちりばめられている。例えば、『2001年宇宙の旅』ではコンピュータのHALは暴走する。しかし『インターステラー』のTARSは逆に人間の思考をよく理解し、先回りして最善の手を打ってくれる。さらにラストで主人公が年老いた自分の娘を見るシーンは、『2001年宇宙の旅』のラストに主人公が年老いた姿になっているシーンを彷彿させる。ほかにもシチュエーションで、明らかに意識したシーンがいくつもある。そうした意味では『インターステラー』はノーラン版『2001年宇宙の旅』であり、その関係性はネガとポジなのかもしれない。40代のノーランが、同世代の監督と比べて大きく異なるのは、撮影にデジタル・キャメラを使用せず、フィルム・キャメラにこだわっている点である。今回の特別上映についても、彼は「オリジナルネガからのニュープリントで、一切の手を加えていない」と何度も発言している。
    『2001年宇宙の旅』は、公開時、通常の70ミリ上映のほか、シネラマという大画面の上映形式も行われたが、『ダンケルク』もまた、通常の35ミリのほか、70ミリ、IMAXという大画面上映方式も行われている。
    この事実を考えると、キューブリックもノーランも、大画面というフォーマットにいかにこだわっていたかが判る。
    キューブリックが細部にまでこだわった映像と音響を、彼の意志を継いだスタッフたちの手により、最新のデジタル技術で再現したのが、今回、新たに発売される4K ULTRA HD版だ。画質も音響も極限レベルまで再現され、自宅で楽しめるようになるとは嬉しい限りだ。

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