「ウエストワールド<ファースト・シーズン>」映画評論家、町山智浩が語る!アメリカ最新エンタメ事情と本作の魅力!

2018.02.05 海外ドラマ

今、アメリカのドラマが"ものすごいこと"になっている!

2012年から2017年の5年間で制作された新作ドラマ数の増加率は約680%!
2017年に地上波や、ケーブルテレビ、ネット配信(Netflix、huluなど)で制作されたオリジナルの新作ドラマはなんと487本!そのうち、地上波は153本とチャンネル数が増えていないため大きな変動はないですが、ケーブルテレビは、チャンネル数が多いこともあり175本、月額15ドル程の視聴料を支払うことで視聴できる放送局HBOでは42本、ネット配信は117本とものすごい数のドラマが作られています。15年前の 2002年には わずか182本でしたが、2012年から2017年の5年間で制作されたドラマ数の増加率は約680%と約7倍近い数字となっています。また、各ドラマの製作費も日本とはケタ 違い!邦画では大作映画でも 1本につき製作費約10億円前後なのに対し、HBOで放送されたTVシリーズ「ウエストワールド<ファースト・シーズン>」の総製作費約60億円と、日本映画の1本の製作費を軽く超えています。さらに、<ファースト・シーズン>のエピソードの平均視聴者数が1,250万人を記録し、ディズニー映画『カーズ』といった大ヒット作品でも大人、子供を含めた劇場動員数が約3,000万人なので、有料チャンネルで会員数が多くないこと、そして成人しかみることができないことを考えると、すごい数の視聴者数を記録しています。

もうアメリカではゴールデンタイムという概念は存在しない!
このように、アメリカのドラマ市場がものすごいことになっている背景にはいくつかの理由があります。まずは、視聴形態が大きく変化していること。アメリカではテレビを持たない世帯が増えています。昔のように家族が揃ってテレビを視聴することがなくなり、それぞれがスマートフォンなどのデバイスで自分が観たいものを観るようになっています。どこにいてもスマートフォンで視聴することができるため、通勤と帰宅の際に1話ずつみることで、1シーズン(10話)を1週間で見終え、毎週違うドラマをみる人が増えました。また、個々の生活形態も多様になってきている中で、ネット配信のコンテンツであればいつでも視聴す ることができるため、放送時間というものが意味をなさなくなってきて、アメリカではゴールデンタイムという概念は存在していません。

テレビ史上最高のドラマ制作数を表す"ピーク TV"という言葉が登場!?
コンテンツが大きく変化しているということもドラマ市場に大きな影響を与えています。地上波では、未成年やスポンサーなどに配慮し、放送倫理コードや通信法に縛られていて、かつ自主規制があります。ケーブルテレビも少し規制が緩い程度。そして劇場もアメリカ映画協会(MPAA)によって暴力シーンなどに対する規制がかなり厳しくなっています。そんな中で、HBOやネット配信では、視聴料を払って見たい人だけがドラマを観るため、スポンサーや、規制に縛られることなく、映画よりもコンテンツの内容が自由になっています。そして、とにかくドラマを制作して、失敗したら、すぐにやめるというスタンスなので、1シーズンで終わってしまう作品もかなり多くなっています。3年程前から、アメリカではテレビ史上最高のドラマ制作数という意味の"ピークTV"という言葉が出てきています。ただ、毎年制作される数がどんどん上がっていてそのピークが落ちないんです。今年も昨年から増え、約500本近いドラマが制作されると言われています。

「ウエストワールド」のココがすごい!

■「ウエストワールド」とは
人間そっくりなアンドロイドたち<ホスト>が来場者である人間たち<ゲスト>をもてなし、<ゲスト>は自らの欲望のまま、時には道徳に反する行動をも起こすことが できる、体験型アトラクション。1日の入場料が約450万円と高額料金なので株主や社長といった富豪たちが、彼らの欲望を満たすために来園し、<ホスト>に 対して何をしても許される世界となっています。

■インスパイアされたゲーム「グランド・セフト・オート」
本作は『インターステラー』『ダンケルク』の監督で知られるクリストファー・ノーランの弟ジョナサン・ノーランと妻のリサ・ジョイが製作総指揮を務めています。ちなみに、アメリカのゲーム会社が制作した「グランド・セフト・オート」というロサンゼルスを舞台にした、暴力や殺しなど何をしても許されるゲームがありますが、ジョナサン・ノーランと、リサ・ジョイは、それを現実化したらどうなるのかというところからインスパイアされ、本作の製作に至ったといいます。さらに銃で撃たれたり、殺される対象をアンドロイドにしたらどなるのか。殺されるアンドロイドの気持ちになったらどうなのか、ということを考えたそうです。

■オールヌードを披露!?キャストたちの体当たりな演技にも注目!
HBO作品なので暴力、殺人、売春、なんでもありの世界観をそのまま表現してい ることで、大人が楽しめる内容になっています。特に主人公の<ホスト>ドロレスを演じたエヴァン・レイチェル・ウッドという綺麗な女優さんもオールヌードを披露しています。また、<ホスト>たちは修理されるときに皆、裸になるので、男女年齢かまわず、ホストを演じるキャストたちはヌードを披露しています。

■暴力シーンの素晴らしさと、時間軸のトリック
映画レベルのキャストが本当に素晴らしく、特に、エド・ハリスが演じる"黒服の男"は倫理やモラルのない世界で悪を尽くしている。彼の暴力シーンは素晴らしいです。また、クリストファー・ノーランは、『インセプション』『ダンケルク』などで複数の時間軸を同時進行でみせていますが、弟のジョナサン・ノーランも本作で時間軸によって視聴者を欺いています。

■音楽に隠された秘密
本作は、音楽も素晴らしい。娼婦や<ゲスト>が集う酒場で自動演奏のピアノ曲が流れるシーンでは、レディオヘッドやサウンドガーデンなど誰もが知っているロック曲ばかりが使われ、その曲が西部劇風にアレンジされています。また、The Rolling Stonesの『Paint it, Black』をオーケストラでオペラ風に演奏している曲が流れる大虐殺のシーンはかなり印象的な仕上がりになっています。

■壮大なストーリーに今後の展開が見逃せない!
実は、人間の脳はかつて、右脳と左脳が別に分かれていたという学説があります。右脳が抽象的に考えたことを、意識の表にある左脳に伝える際に、その信号が外部からの声のように聞こえていたそうです。そこから、"神の声"という概念が生まれたのではないかと言われていて、本作でもその概念が用いられている部分があります。今後、自我に目覚めたアンドロイドたちと人間の間でどのような壮大なストーリー 展開になっていくのか、先が見逃せない注目作です。

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