デジタル配信が開始となった9月6日(水)には、映画学校の生徒を招待して 本作の監督であり脚本を手掛けた入江悠、脚本を担当した平田研也が語るティーチイン試写会を実施いたしました。脚本は、原作である韓国映画『殺人の告白』をベースに最終稿に至るまで37回にわたり手が加えられ、徹底的に磨きあげられていることから、脚本のクオリティーの高さが口コミで広がるほど高い評価を得ている本作。今注目の監督入江悠と、本作でも脚本が高く評価された平田研也が、本作の大ヒットの裏側や映画制作・脚本に対するこだわりを余すことなく語った模様をレポートにしてお送りいたします。
まずは2017年上半期邦画実写No.1を記録した本作の大ヒットについて入江監督は、「本当に嬉しい。ヒットして良かったなと思います。SNS上でも脚本にグッときてくれている感想が多く、脚本を構成していく上で考えていたことが観客の方にきちんと伝わっているなと感じましたね」と嬉しそうに語った。また脚本家の平田も「SNSで内容が面白い!という声が多くて、本当に脚本家として素直に嬉しかったです。原作ものの作品が多い中で、原作に頼らずに本作が多くの人に受け入れられたことにとても勇気づけられました」とSNSでのリアルな反響に二人とも大きな手応えを感じていたようだ。
本作の脚本がどのようにして作られていったのかを聞かれると平田は「最初は僕のところにオファーがきました。原作の韓国映画『殺人の告白』はアクションが見どころになっていますが、本作ではなるべく現実に即した内容にしてほしいというオファーがありました。また、原作で重要になる時効制度が、日本では撤廃されているので、その壁をどう乗り越えるかが大きな課題でしたね。脚本が完成するまで約3年かかりました(笑)」と時間をかけて綿密に脚本を書き上げていった裏側を語った。また本作は入江監督と平田の共同脚本ということで、どのように制作を進めていったのかについて入江監督は「稿の前半が平田さんの執筆で、キャスティングが進みキャラクターがイメージしやすくなった稿の後半を僕が書くことが多くなったかな」と話し、「今回の作品は絶対に一人で脚本は書けなかったと思います。平田さんが積み上げた脚本があって、そこにお互いのアイデアを持ち寄って粗を潰しながら作りあげていきました。ドンデン返しや伏線の部分も重要だったので、本当に共同作業でよかったです」と入江監督にとって平田の存在が大きかったことを明かした。また平田も「"脚本"といわれると孤独な作業のように勘違いされがちですが、執筆する時は一人でも、実際に監督やプロデューサーとも話し合いながら進めていくので、基本はチームプレイなんです」と意外な制作の裏側を教えてくれた。
「メインのキャラクター造形には時間がかかりましたね。とくに犯人像は原作とは異なるオリジナルになっています。あとはキャラ クターの過去は徹底的につくりあげました。1995年から2017年までの22年間を描いていたので、キャラクターが22年間をどのように歩んできたのかという設定を明確にして、自分の中で正確に把握していました」と入江監督。さらに「真犯人がどういう心理なのかというのを理解するために、実際に日本の法律や犯罪心理学の専門家へ取材をしました。例えば、連続殺人犯は、殺したいという心理と早く見つかりたいという両方の心理が働くことで、殺人サイクルがどんどん早まっていくんです。なので、本作の犯人がどのような殺人のモチベーションと思考をもっているのかを知るために、リサーチは徹底しました。また、1995年の中で阪神淡路大震災を描いており、実際に経験されている人もいる中で、倫理的に"無知で書くことは罪"だと思っていたので、きちんと取材はするべきだと思っていました。本作でとても重要な報道番組のシーンも、報道番組を制作している方に話を聞いたりしましたね。
本当に脚本を書けば書くほど"リサーチ"や"取材"など"足を使った取材"の重要性を痛感します。最近読んだジャーナリストのノンフィクションで【100調べて10書け】【10しか調べられなかったら1しか書くな】という名言がとても腑に落ちたんです」という入江監督。すると平田も「ただ、調べた内容をそのまま書けばいいということではなく、リサーチした中で自分が面白いと思えたことを盛り込むようにしています」と脚本家として心がけている点を明かしてくれた。
「やはりシンプルにおもしろいことが基本なんじゃないかな。人に伝えたくなるような内容になっていることが大事だと思うんですよね。」と入江監督。また平田は「拡がりを感じられることかな。画面に映っていないワクの外にあるものを感じられるようになっているべきだと思っています。例えば、氷山に例えると、水面から見えているのは一部だけですが、その下に支えている部分があって初めて見えてくる部分がある。脚本もそういうものではないかと感じています。そして脚本にとって見えない部分が取材やリサーチにあたるのではないでしょうか。」と改めて取材やリサーチの重要性を語った。また、1995年から2017年の経過を表す映像の中で、森ビルが建設されていく過程をCGで描いているシーンに関して入江監督が「実はVFXプロデューサーの赤羽さんは森ビルから設計図を取り寄せて、実際に建設された手順や骨組通りに CGで再現しているんです。そういう見えにくい部分も手を抜かずに徹底している部分は脚本と似ているのかもしれないですね」と話してくれた。
本試写会に招待された脚本を学んでいる学生に向けて、メッセージを聞かれると、平田は「本当にたくさん書いて、たくさん見てもらって、意見をもらい、とにかく書き続けるしかない。話のストックが頭の中にあるなら、それを全部吐き出して、ゼロから書けるかって言うところが大切なんじゃないかなと思います」とメッセージを送った。また入江監督も「やっぱり書くしかないと思う。オリジナルでも面白いものを待っているプロデューサーはたくさんいるので原作がなくてもいいんです。とにかく書いて持っていくことが大切ですね」と呼びかけた。