今回は『シャザム!:魔法の守護者』『アクアマン』などの翻訳を手掛けた、イラストレーター/翻訳家の内藤真代さんが DC コミックスを世に送り出している、DC アメリカ本社の潜入レポートをお届けします。
『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『スーサイド・スクワッド』と、DCEU(DC エクステンデッド・ユニバース)を冠する新作映画が次々と封切られ、後に控えるタイトルも目白押しの DC。映画の成功 とともに、日本国内でも邦訳コミックの刊行数がグングン伸び、映画、コミック共に大いに盛り上がっている。その総本山 たるDCの本社は、長年拠点としていたニューヨークから、2015年にカリフォルニア州バーバンクへと移転した。この度、 その新オフィスを見学する幸運に恵まれたので、その潜入レポートをお届けしたい。
まず受付ロビーに通されると、そこは映画『スーパーマン』でも お馴染み、「孤独の要塞」を模した半透明の壁に囲まれた空間。 そのあちこちに映画で使われたコスチュームや、超人気アーティストにしてDCの重役、ジム・リー画のバットマンを元にしたレゴアート、そしてDCヒーロー、ヴィランたちのアクションフィギュアを駒に見立てた チェス盤などが展示され、ファンとしてそこに立っているだけで感極まって 孤独の要塞を模したロビー しまう。ロビーの周辺も、壁一面のマガジンラックには最近刊行された コミックスがタイトル問わずずらりと並び、なんと来訪者は何冊でも 持ち帰り自由という。他の壁にも、オフィスを訪れたアーティストたちの アクションフィギュアのチェス盤 アーティストの寄せ書き 直筆パネルや、80年に渡るDCコミックスの歴史を一望できる解説パネルなどが飾られ、会社見学というよりミュージアムを訪れている気分だ。
編集部の執務エリアに足を踏み入れても、壁や天井、床にまで アートがあしらわれ、ますます賑やかに。各編集者のデスクには担当キャラクターのフィギュアなどが ぎっしり並び、小さいお子さんと思われるファンからのイラスト入りファンレターが飾られていたりと、 作品に情熱を傾けて仕事をしている様が伝わってくる。壁に並ぶ重役室のドアにはそれぞれ違った ヒーロー、ヴィランの特大アートが並んでいて、部屋の主の好きなキャラクターをアピールしているとのこと。ちなみに、同社重役にして現在は DCEUの統括もしている売れっ子ライター、ジェフ・ジョーンズの部屋のドアには、ドラマ「THE FLASH / フラッシュ」でもお馴染みキャプテン・コールドの姿が。彼が手がけ一躍人気者に押し上げた数々のキャラの中でも、敢えて彼をチョイスするところになんともこだわりが伺える。
執務エリアまででも、すでに紹介しきれないほど見所が盛りだくさんなのだが、なんといっても最大の目玉は、80年間に同社が刊行したほぼすべての出版物を収蔵した書庫である。地下の狭い廊下の先に、同社の処女誌であるニュー・ファン:ビッグ・コミック・マガジン1号表紙があしらわれた扉がひっそりと待ち受ける。当方がシャザム好きであることを知った司書のベンジャミンさんから、「扉を開けるには合言葉が必要だよ」と、シャザムの名前の由来を暗唱させられるお茶目な一幕もありつつ、緊張で息を潜めながら扉をくぐると、古いコミックを買ったときと同じ、独特の紙とインクの匂いが。そこには、市場に出せばとんでもない値がつくだろう各看板タイトルの1号はもちろん、有名な2代目ロビンの死にまつわるエピソードの没ページの生原稿や、連載打ち切りとなって世に出なかった原稿ばかりを集めた本など、ここでしか見られないような 貴重な品々が保管されている。そのお宝の数々を、ベンジャミンさんの雄弁な解説と共に惜しげなく披露してもらえる というのは、DCファンにとっては何物にも代えがたい体験だ。
本社を訪ねて肌身に感じたのは、そこで働く皆がDCコミックスの世界を深く愛し、読者に素晴らしい体験を届けることを第一にしているということ。それは社内の案内時も例外でなく、編集のアンドリューさんも司書のベンジャミンさんも、いかにDCが好きか、そしてそこで働くことが楽しいかを活き活きと伝えてくれた。ここから日夜送り出される作品があれだけ魅力的なのも、納得の社内見学であった。
TEXT:内藤真代