1999年に製作され、アニー賞9部門に輝いた『アイアン・ジャイアント』に、幻の2シーンを追加収録、さらにリマスターを施した『【初回限定生産】アイアン・ジャイアント シグネチャー・エディション Blu-rayスペシャル・セット』を2016年12月7日(水)に発売いたします。公開から10年以上経った現在も、色褪せない名作『アイアン・ジャイアント』の作品の魅力や、人気の秘密を"映画評論家 町山智浩"が解説いたします。
「ここでは誰でも何にでもなれるの」
今年大ヒットしたディズニー・アニメ『ズートピア』で、そのセリフを聞いた時、『アイアン・ジャイアント』のことを思い出した。主人公ホーガスが巨大ロボット、アイアン・ジャイアントにこう言う。
「君は自分がなりたい自分になれるんだよ」
『アイアン・ジャイアント』は、『Mr.インクレディブル』『レミーのおいしいレストラン』『トゥモローランド』などの監督、ブラッド・バードの長編デビュー作。1957年、ソ連の人工衛星スプートニクの打ち上げ成功によって、アメリカ人たちが核攻撃の恐怖に怯えた頃、迷子の巨大ロボットとホーガス少年が友情を結ぶ。
『アイアン・ジャイアント』は興行的には成功しなかったが、映画ファンの間でカルト的な人気を呼び、雑誌「映画秘宝」の年間ベストテンでは4位にランキングされた。
アメリカでも2002年から繰り返しテレビ放送されて感動した人々を増やしていき、今ではアニメ史上の名作のひとつに数えられている。
アイアン・ジャイアントは一切の記憶を失っており、赤ん坊のように無垢な状態で、ホーガス君から教育される。
ハンターが鹿を射殺する現場を目撃して「殺すこと」について学ぶシーンは1942年公開のディズニーの名作アニメ『バンビ』でバンビの母親がハンターに殺されるシーンへのオマージュだろう。
しかし、ジャイアントは思い出す。
自分が異星人の超兵器だったことを。殺しのために作られたことを。
今回、シグネチャー・バージョンとして、当初、入るはずだった2つのシーンが新たに追加された。一つはダイナーでウェイトレスとして働くホーガスの母と、ホーガスの理解者であるビートニクスのディーンが 語らう場面。それに、アイアン・ジャイアントの夢だ。鹿殺しを見た晩、ジャイアントは夢を見る。それを居間のテレビが受信してブラウン管に映し出す。ジャアントが他のロボット兵と共にどこかの惑星を侵略し、核爆弾で滅ぼす。それはただの悪夢ではない。ジャイアントの過去の記憶だ。このシーンが復活したことで、ジャイアントがクライマックスで核ミサイルに突っ込んでいく意味がさらに深くなる。それは彼が犯した罪の償いだったのだから。
戦争の道具として作られたジャイアントだが、ホーガスが読ませてくれたコミック・ブックのスーパーマンように人々の役に立ちたいと願う。なりたいものになる、というテーマは、その後のブラッド・バードの作品にも共通する。『Mr.インクレディブル』はスーパーヒーローが法律で禁じられても、やはりヒーローとして戦う。『レミーのおいしいレストラン』のレミーはドブネズミだが、料理が大好きで、一流のシェフになる夢をあきらめない。
バードは大作『トゥモローランド』で失敗したが、次作『Mr.インクレディブル2(原題)』で必ずや復活するだろう。アイアン・ジャイアントが帰ってきたように。
TEXT:町山智浩