「ハリー・ポッター」シリーズ初期のころ、最終的にハリーと「くっつく」のはハーマイオニーだと思っていた人は多いかもしれませんね。しかし、実際そうだったとしたら、2人は良いカップルになっていたでしょうか。
物語が中盤に差し掛かったころ、私と友達の間で白熱した議論があります。そう、それはロンとハーマイオニーがくっつくのか、はたまたハリーとハーマイオニーがくっつくのか、という議論です。どちらになるのか予想は難しかったですが、私たちには確信していたことがひとつありました。それは、3人組のなかでカップルが誕生するだろうということでした。
もちろん、物語のなかで最終的な答えは出ましたが、それでもなおこの議論は続きました。そして作者であるJ. K.ローリングがこのことについて追加コメントを出したとき、この話題は一層盛り上がりを見せました。2014年にエマ・ワトソンがローリングにインタビューした際の出来事です。ローリングは、「ハリーとハーマイオニーをくっつけるか悩んだことがある」と言及したのです。さらに、「ロンとハーマイオニーのカップル誕生は自分の願望を込めての結末だった」とも付け加えたのです。とはいえ、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のなかではハーマイオニーとロンは互いをとても愛し合っているように見えました――まあ、相変わらず口論しながらですが...。
ハリーとハーマイオニーをくっつけようと思ったことがない人も多いかもしれませんが、それでもこの2人をくっつけたいという願望をいまだに持ち続けているファンもなかにはいるのです。そこで今回は、ハリーとハーマイオニーはカップルとして成立し得たのかについて、賛成派と反対派に分けて考えてみましょう。――ハリーとハーマイオニー、2人の名前が韻を踏んでいることはひとまず置いておいて。
ホグワーツ特急のなかで3人が初めて出会ったときのことを思い出してみてください。ハーマイオニーは出会ってわずか5分たらずでロンに、鼻に泥がついていると伝えたのです(「ついでだけど、あなたの鼻、泥がついてるわよ。気がついてた?」)。それとは対照的に、ハーマイオニーはハリーとは出会ってすぐに仲良くなり、そのうえ彼の眼鏡も直してあげたのです。ハーマイオニーのロンに対する攻撃的な態度は続き、スキャバーズに呪文を使うように煽った挙げ句、そのままどこかへ去ってしまいました。
彼らの冒険を通して考えてみても、ロンとハーマイオニーのときよりもハリーとハーマイオニーが一緒にいるときのほうがお互いを尊重していて、その結果としてより穏やかな友情を育んでいるように見えました。三大魔法学校対抗試合が始まったばかりの頃、ロンはハリーと喧嘩をしていたのに対し、ハーマイオニーはハリーのことを誰よりも理解していました―。きっとこの2人のペアのほうが良い関係を築けているように思われていたことでしょう。クィディッチ・チャンピオンと、学年随一を誇る秀才な魔女が付き合っていたら、周りの注目を集めるカップルになったに違いありませんね。
みなさんご存知の通り、誰かに対して意地悪をするということは、相手に好意を持っていることを隠すためにしばしば使われる手段です。
作品を通してロンとハーマイオニーの子どもじみた振る舞いは続き、ハリーは2人の言い争いにはできるだけ関わらないようにしていました(とはいえ、ハリーはもう少しロンと話してあげるべきだったとは思いますが)。なにはともあれ、ハリーはハーマイオニーに対して深く感謝していました。しかし、ロンのように彼女のことで嫉妬心を抱くようなことは一度もありませんでした。たとえば、イケメンのミスター・クルムが登場したときがその良い例でしょう。ハリーは、ハーマイオニーが誰と交際していようと、全く気にしていない様子でした。チョウ・チャンがセドリックとクリスマス・パーティーへ行くと知ったときに示した嫉妬とは大違いです。
「思い上がりだわ!」リドル - ハーマイオニーの声が響いた。
本物のハーマイオニーよりもっと美しく、しかももっと凄みがあった。ロンの目の前で、そのハーマイオニーはゆらゆら揺れながら高笑いした。ロンは、剣をだらんと脇にぶら下げ、怯えた顔で、しかし目が離せずに金縛りになって立ちすくんでいた。
「あなたなんかに誰も目もくれないわ。ハリー・ポッターと並んだら、誰があなたに注目するというの?『選ばれし者』に比べたら、あなたは何をしたというの?『生き残った男の子』に比べたら、あなたはいったい何なの?」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
ロン自身も含めて、多くの人たちがハリーとハーマイオニーの間になにかがあるのではないかと思っていました。これは、学生なら考えそうなことですよね。2人の男女がともに多くの時間を過ごしているのであれば、確実に2人の間になにかがあるに違いないでしょう。
リータ・スキーターでさえ、ロンの悔しさをよそに、日刊予言者新聞のゴシップ記事が書けると思ったほど、ハリーとハーマイオニーの間にはなにかがあると疑っていました。そして実際ロン自身も、ハリーとハーマイオニーがくっついてしまうのではないかという不安をずっと抱えていたのです。この事実は『ハリー・ポッターと死の秘宝』のなかで、ロンが分霊箱であるスリザリンのロケットの影響をひどく受けたときに明らかになりました。
ハリーの最初の彼女であるチョウ・チャンも、ハリーとハーマイオニーの友情についてひどく不安を感じていました。そして鈍感なハリーは、チョウとデートをした日と同じ日にハーマイオニーとホグズミードで会う約束をしてしまい、彼女をより不安にさせてしまったのです。この点については、ハーマイオニー自身も無神経なハリーにアドバイスしてあげなければならなかったほどです...。
「ハリーったら」ハーマイオニーは悲しげに言った。「言いたくはないけど、あなた、ちょっと無神経だったわ」
「僕が? 無神経?」ハリーは憤慨した。「二人でうまくいってるなと思ったら、次の瞬間、チョウはロジャー・デイビースがデートに誘ったの、セドリックとあの バカバカしい喫茶店に来ていちゃいちゃしたのって、僕に言うんだぜ――いったい僕にどう思えって言うんだ?」
「あのねえ」ハーマイオニーは、まるで駄々をこねるよちよち歩きの子供に、1+1=2だということを言い聞かせるように、辛抱強く言った。「デートの途中で私に会いたいなんて、言うべきじゃなかったのよ」
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
リータ・スキーターが2人の「若いロマンス」について『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』のなかで言及した際、ハリーは書かれていることについて眉ひとつ動かしませんでした。この状況をハーマイオニーがどのように対処しているかを称賛はしたものの、それ以上この件について考えることもありませんでした。それよりも、これがきっかけでロンが自分と口をきいてくれなくなるかもしれないということを心配しているようでした。むしろ、ハーマイオニーとの友情よりもロンとの男同士の絆のほうがずっと大切なのかもしれないとまで考えていたのです。もし、ハリーがハーマイオニーに対して何らかの感情を抱いていたとしたら、リータのゴシップ記事が出たときにもっと恥ずかしい気持ちになったはずでしょう。ハーマイオニーも、ここまで無関心な態度を取らなかったはずです。
そのうえ、ハリーは『炎のゴブレット』のなかで三大魔法学校対抗試合だけではなくチョウ・チャンへ想いを募らせることで精一杯でした。彼らの短いロマンスは『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』まで続きましたが、この間はハリーと再びグリモールド・プレイスで会うまで、ハーマイオニーとロンが2人きりで多くの時間を過ごしてきたことはみなさんも知ってのとおりです。
恋愛の形は十人十色です。何年も最高の友達だと思っていた2人が、実は最高のパートナーであることになかなか気づかないこともあります。そして、お互いの相性のよさは友人以上だということが何年も経ってから分かるのです。そんな関係こそが、ハリーとハーマイオニーだった、なんてこともあるかもしれません。というのも、ハリーはハーマイオニーの前ではいつもとても居心地がよさそうなのです。
例えば、2人がゴドリックの谷を訪れハリーの両親のお墓を見つけた、あのとても悲しいシーンを思い出してみましょう。ハーマイオニーに手をしっかりと握られながら、ハリーは声を上げて泣きました。非常に胸が痛むシーンでしたが、ハリーがハーマイオニー以外の人にあんなふうに自分の感情をむき出しにしている姿は想像できませんね。
ハーマイオニーは、またハリーの手を取ってぎゅっと握った。ハリーは顔を上げられなかったが、その手を握り返し、刺すように冷たい夜気を深く吸い込んで気持を落ち着かせ、立ち直ろうとした。何か手向ける物を持ってくるべきだった。いままで考えつかなかった。墓地の草木はすべて葉を落とし、凍っている。しかしハーマイオニーは杖を上げ、空中に円を描いて、目の前にクリスマス・ローズの花輪を咲かせた。ハリーはそれを取り、両親の墓に供えた。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』のなかで、ハリーは突然、自分がジニー・ウィーズリーの恋愛に嫉妬するようになったことに気づきます。そして、ハリーはまた、一晩中ジニーのことを考え、ジニーに対する自分の気持ちは、完全に自分が妹を守ろうとする兄妹愛のようなものであると自分に言い聞かせていました。よく言うよ、ハリー。
ハーマイオニーがクルムとのつかの間のロマンスを楽しんでいたとき、ハリーはまったく動じる様子もなく、自分とハーマイオニーの関係は良き友達だということをしっかりと分かっていました。もしハリーが本当にハーマイオニーのことを好きだったとしたら、ジニーとディーン・トーマスの関係を知ったときと同じような反応を示していたことでしょう。――そう、「ハリーの胸の中の生き物」という言葉で表されたあれです。そしてその「生き物」は、ハリーとジニーが最終的に結ばれたときに初めて静かになりました。
映画では、ハリーとハーマイオニーの関係性を違う視点から見ることができます。『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』のなかに、ハリーとハーマイオニーが分霊箱探しの旅に出ている際、2人がNick Caveの『O Children』という曲に合わせて踊るというシーンがあります。これは2人の仲の良い友人同士が怒りや悲しみを解き放とうとする心温まる場面というだけなのでしょうか。それとも、実はもっとロマンチックなものなのでしょうか。この点については、ファンの意見は割れています。
結局のところ、ハリーが誰かに対して恋愛感情を抱いた際、それは本のなかでしっかりと言及されているようです。第三者目線で読者がハリーの考えや感情を追う際、おおかたの場合は、彼の素直な気持ちを文字を通して理解することができました。そして、それによれば彼が恋愛的な意味で惹かれたのはチョウ・チャンとジニー・ウィーズリーだけのようです。一方で、ロンはハーマイオニーから頬にキスをされて、何が起こっているのか分からなくなるほどでした。
しかし、もしかすると、ハリーとハーマイオニーについて、私たちの知らない2人だけの関係がページの奥に隠されているかもしれませんよね。
それでは、みなさんどうぞ議論を続けてください!