ホグワーツの戦いで繰り広げられた英雄的な瞬間の数々のことは、みなさんもきっとよく知っているでしょう(ネビルがグリフィンドールの剣を振るった瞬間などのことです)。しかし、実はその裏で小さいけれど同じくらい称賛に値する、勇敢な瞬間が数多く存在していたことを知っていますか?今日は、アクションが有名な決闘の場面の影に隠れている、あまり知られていないけれど褒めたたえるべきいくつかの場面を紹介していきたいと思います。
もし今、原作『ハリー・ポッターと死の秘宝』を読み直しているのであれば、あなたはどの場面が目にとまるでしょうか?
ハリーはしばしば、自分が人に多くを求めすぎているのではないかと心配することがありました―。そのため、この場面はとても重要であったことが分かります。在校生の大多数の生徒たちがハリーを守るようにスリザリン生たちの前に立ちはだかる姿は、とても心打たれるものでした。その場にいた多くの生徒たちは、戦い自体に参加するには若すぎたものの、自分たちが正しいと信じるもののために立ち上がる勇気を持っていることをしっかりと見せつけてくれたのです。
やがてスリザリンのテーブルから誰かが立ち上がり、震える腕を上げて叫んだ。
「あそこにいるじゃない! ポッターはあそこよ! 誰かポッターを捕まえて!」
それがパンジー・パーキンソンだと、ハリーにはすぐわかった。
ハリーが口を開くより早く、周囲がどっと動いた。ハリーの前のグリフィンドール生が全員、ハリーに向かってではなく、スリザリン生に向かって立ちはだかった。次にハッフルパフ生が立ち、ほとんど同時にレイブンクロー生が立った。全員がハリーに背を向け、パンジーに対峙して、あちらでもこちらでもマントや袖の下から杖を抜いていた。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
パーシー・ウィーズリーは自分の過ちをすぐに認められるような人ではありませんでしたが、ヴォルデモート卿の復活については、あれ以上の間違いはなかったといえるでしょう。そして、その間違いがはっきりとしたとき、パーシーはトンネルをよじ登って家族のもとへ戻り、ともに戦うことを選んだのです。かなり時間はかかったものの、自分の(あまりにも愚かな)過ちについての謝罪もしました。ウィーズリー家は誰もが知っているように思いやりが強い一家なので、この謝罪をすんなりと受け入れそれ以上を求めませんでした。家族の全員が生きているうちに仲直りができて、本当に良かったですよね。
「僕はバカだった!」パーシーが吠えるように言った。あまりの大声に、ルーピンは手にした写真を落としかけた。「僕は愚か者だった、気取った間抜けだった。僕は、あの――あの――」
「魔法省好きの、家族を棄てた、権力欲の強い、大バカヤロウ」フレッドが言った。
パーシーはゴクリと唾を飲んだ。
「そう、そうだった!」
「まあな、それ以上正当な言い方はできないだろう」
フレッドが、パーシーに手を差し出した。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
ホグワーツが襲撃されていたとき、コリンがその場から離れるはずがないと誰もが見抜くべきでした。在学中、ひたすらにハリーを慕い、かつダンブルドア軍団の一員として誇らしい気持ちを持っていたコリンは、自分ができることを精一杯果たすためにもちろん残ることを選びました。戦いに参加するにはあまりにも若すぎたものの、彼はきっと自分の持ちうる力のすべてを使って戦ったことでしょう。彼の死を知ったときの読者の絶望はたとえようがありません。コリンは魔法界の未来をより明るいものにするために、自分の命を懸けて戦い、そして命を落としてしまいました。彼の死についてはほんのわずかしか触れられていないものの、彼が英雄であったことに間違いはありません。
ホグワーツの戦いにおけるロンの活躍は山ほどありますが、この活躍はもう少し広く知られてほしいものです。ハリーがホグワーツにいたころ、屋敷しもべ妖精たちは魔法界のためにたくさん貢献をしてきたものの、忘れられがちな存在でした。彼らの権利について、本気で考えてあげたのはハーマイオニーくらいだったのではないでしょうか。そのため、ロンが彼らのことを思い出し安全な場所へ連れ出そうとした出来事は、私たちにとって非常に大きな嬉しさと驚きでした。もちろん、ハーマイオニーがその行動に感心したのは、いうまでもありませんね。
「ちょっと待った!」ロンが鋭い声を上げた。「僕たち、誰かのことを忘れてる!」
「誰?」ハーマイオニーが聞いた。
「屋敷しもべ妖精たち。全員下の厨房にいるんだろう?」
「しもべ妖精たちも、戦わせるべきだっていうことか?」ハリーが聞いた。
「違う」ロンがまじめに言った。「脱出するように言わないといけないよ。ドビーの二の舞は見たくない。そうだろ?僕たちのために死んでくれなんて、命令できないよ――」
ハーマイオニーの両腕から、バジリスクの牙がバラバラ音を立てて落ちた。ロンに駆け寄り、その両腕をロンの首に巻きつけて、ハーマイオニーはロンの唇に熱烈なキスをした。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
ホラス・スラグホーンは、スリザリン生ならではの資質である「自己保身」をまさに体現したような人でした。自分にとって有益でないことは一切しようとしないような人物だったので、まさか彼がホグワーツの戦いに残り、命を懸けて戦うはずがないだろうと思ったとしても、無理はありません。しかし、彼は残ったのです。ヴォルデモートと真っ向から戦うために。
ヴォルデモートはいま、マクゴナガル、スラグホーン、キングズリーの三人を一度に相手取り、冷たい憎しみの表情で対峙していた。三人は、呪文を右へ左へとかわしたり、掻いくぐったりしながら包囲していたが、ヴォルデモートを仕留めることはできないでいた――。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
ヴォルデモートとの決闘を生き抜いたことはもちろんですが、スラグホーンが本来の自分らしさに抗い、正義のために戦ったという事実には感心できます。この行動で間違いなくスラグホーンの株は上がりました。
フレッドの死はとても痛ましいもので、多くの登場人物たちに大きなショックを与えました。フレッドを愛する者たちは、悲しみのなか、戦い続けることは不可能に近いと思っていたに違いないでしょう。フレッドの死を知ったハリーとロンは、瞬く間に集中力を失い(無理もありません)、復讐を望みました。しかし、ハーマイオニーだけは、このまま突き進むしかないことをしっかりと分かっており、ロンのためにも自分を強く持つ必要がありました。そこで彼女は自分のことを差し置いて、ロンの願いや気持ちを優先させながらも、3人が本来の進むべき道から逸れないようにしました。
「ハリー、こっちよ!」ハーマイオニーが叫んだ。
ハーマイオニーは、ロンをタペストリーの裏側に引っ張り込んでいた。二人が揉み合っているように見えたので、ハリーは一瞬変に勘ぐって二人がまた抱き合っていたのではないかと思った。しかし、ハーマイオニーは、パーシーを追って駆け出そうとするロンを抑えようとしていたのだった。
「言うことを聞いて――ロン、聞いてよ!」
「加勢するんだ――死喰い人を殺してやりたい――」
埃と煤で汚れたロンの顔はくしゃくしゃに歪み、体は怒りと悲しみでわなわなと震えていた。
「ロン、これを終わらせることができるのは、私たちのほかにはいないのよ! お願い――ロン――あの大蛇が必要なの。大蛇を殺さないといけないの!」ハーマイオニーが言った。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
愛する人を失っていく(もしくはその生死が分からない)戦いのさなかに、守護霊の魔法を使おうとすることは限りなく不可能に近いでしょう。ハリーやロン、ハーマイオニーも吸魂鬼に取り囲まれたとき、無事に逃げ出すことはできないだろうと感じていました。しかし、そんな彼らのもとに、ダンブルドア軍団は絶好のタイミングで現れたのです。しかも、かつてハリーが技を教えたルーナが今度はまるで先生のように振る舞いながら、素晴らしい呪文さばきで守護霊を出現させました。こうしてダンブルドア軍団は、私たちの大好きな3人組に手を差し伸べるだけでなく、彼らに戦いを続けるための強さと励ましを届けてくれたのでした。
しかしそのとき、銀の野ウサギが、猪が、そして狐が、ハリー、ロン、ハーマイオニーの頭上を越えて舞い上がった。吸魂鬼は近づく銀色の動物たちの前に後退した。暗闇からやってきた三人が、杖を突き出し、守護霊を出し続けながら、ハリー達のそばに立った。ルーナ、アーニー、シェーマスだった。
「それでいいんだよ」
ルーナが励ますように言った。まるで「必要の部屋」に戻ってDAの呪文練習をしているにすぎないという口調だ。
「それでいいんだもン。さあ、ハリー......ほら、何か幸せなことを考えて......」
「何か幸せなこと?」ハリーはかすれた声で言った。
「あたしたち、まだみんなここにいるよ」ルーナが囁いた。「あたしたち、まだ戦ってるもン。さあ......」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
ほとんどの巨人はヴォルデモート側について戦ったかもしれませんが、グロウプは違いました。彼の性格は、自身の異父兄ハグリッドに似ていたといえるかもしれません。グロウプが、ホグワーツの戦いが持つ意味をはっきりと理解できていたかは定かではありません。それでも、彼はホグワーツのために戦うことを選んだのです。たとえ、自分が相手にしなければならない巨人たちが自分よりはるかに大きい相手であったとしても。グロウプは、全ての巨人たちが残酷な怪物なのではなく、もっとさまざまな可能性を秘めた存在であるということを、彼自身をもって証明してくれたのでした。
ヴォルデモートが一時的に攻撃を中止したおかげで、まだ動ける者は負傷した人を確認し、亡くなってしまった人を移すことができました。戦うためには実にたくさんの勇気が必要ですが、遅れをとってしまった人たちに対して安心できる言葉をかけてあげることも、それなりに勇気のいること――疲れ切っているときなら、なおさら――です。ジニーは負傷した生徒の手を取りながら、自分自身もおそらく必要としていた慰めの言葉をかけてあげることで、本当の意味での思いやりを私たちに見せてくれました。
ジニーは、弱々しく母親を呼んでいる女の子のそばに屈んでいた。
「大丈夫よ」ジニーはそう言っていた。「大丈夫だから。あなたをお城の中に運ぶわ」
「でも、わたし、お家に帰りたい」女の子が囁いた。「もう戦うのはいや!」
「わかっているわ」ジニーの声がかすれた。「きっと大丈夫だからね」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
確かにナルシッサの動機はヴォルデモートに逆らうというよりも、家族を守るためのものでしたが、あのヴォルデモート卿に嘘をつくなんて、どれほど勇気のいることだったでしょうか。彼女がついた嘘こそが、ハリーの命をつなぎとめたといっても過言ではありません――さらには、この行動がヴォルデモートの運命を決定づけたともいえます。結局は、ナルシッサが最も大切にしていたのは家族であり、ヴォルデモートに対する恐怖心や支持する気持ちよりも息子への愛が勝った瞬間だったといえるでしょう。
ハリーが最終的にヴォルデモートを倒したとき、当たり前ながら、全員がハリーのそばでこの歴史的瞬間を祝いたいと思ったのです。しかし、長く険しい戦い――実際、数年前にヴォルデモートが戻ってきた瞬間から始まっていた、実に果てしない戦い――がやっと終わり、ハリーは心底疲れきって、打ちのめされていました。ハリーがそうなるのも、無理はないでしょう。そして、その事実に気づけた数少ない人のひとりこそ、ルーナでした。彼女は周りが気を取られるように行動を起こし、その間にハリーを静かに逃がすことに成功したのです。しかも、その方法が何ともルーナらしいものでした。
しばらくして、疲労困憊したハリーは、ルーナが同じベンチの隣に座っていることに気づいた。
「あたしだったら、しばらく一人で静かにしていたいけどな」ルーナが言った。
「そうしたいよ」ハリーが言った。
「あたしが、みんなの気を逸らしてあげるもン」ルーナが言った。
「『マント』を使ってちょうだいね」
ハリーが何も言わないうちに、ルーナが叫んだ。
「うわァー、見て。ブリバリング・ハムディンガーだ!」
そしてルーナは窓の外を指差した。聞こえた者はみな、その方向を見た。ハリーは「マント」を被り、立ち上がった。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』