命知らずで、傲慢で、少し気難しいハリーの名付け親。それでいて、ユーモアにあふれ、義理堅く、思慮深い一面もありました。
この場面は直接的には描かれていませんが、ハグリッドが空飛ぶオートバイでプリベット通りに降り立った数日後に、シリウスはアズカバンへ投獄されました。オートバイを持っていたとは、かなり大胆ですね。そして、ハグリッドに貸したという点に、気前の良さが表れています。ハリーを守るべく、ピーター・ペティグリューとの対決に向かう前に置いていったのです。大胆で優しく、勇敢で。どれもシリウスらしさが表れていました。
あの有名な叫びの屋敷のシーンから1つを選ぶのは難しいですが、スキャバーズの真実を暴いた瞬間は最高なものでした。クルックシャンクスに関するシリウスの説明も、見事だったといえます。犬の姿をした人間が、人間のような猫と協力して、ネズミの姿をした最大の裏切り者の正体を暴くなんて、なんとも衝撃的でしたね。
ペティグリューが人間の姿に戻されると、すべてが一変します。このシーンでは、シリウスとルーピンの2人が協力する姿が表現され、誰が"魔法いたずら仕掛人"だったのかも明らかになりました。実に特別なシーンでしたね。
両親の死に関するシリウスの真実を知ったときから、ハリーとシリウスの間には絆が生まれていました。しかし、希望はすぐに打ち砕かれてしまいます。その最も切ないやり取りが、こちらです。
「とんでもない!」
ハリーの声は、シリウスに負けず劣らずかすれていた。
「もちろん、ダーズリーのところなんか出たいです!住む家はありますか?僕、いつ引っ越せますか?」
シリウスがくるりと振り返ってハリーを見た。スネイプの頭が天井をゴリゴリこすっていたが、シリウスは気にも留めない様子だ。
「そうしたいのかい?本気で?」
「ええ、本気です!」
ハリーが答えた。
シリウスのげっそりした顔が、急に笑顔になった。ハリーが初めて見る、シリウスの本当の笑顔だった。その笑顔がもたらした変化は驚異的だった。骸骨のようなお面の後ろに十歳若返った顔が輝いて見えるようだった。ほんの一瞬、シリウスはハリーの両親の結婚式で快活に笑っていたあの人だ、とわかる顔になった。
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
ご存じのように、それは実現することはありませんでした。しかし、ほんのつかの間でもその可能性を信じる2人を感じることができた場面でした。
ハリーが4年生になった年、シリウスは遠くからハリーを見守りましたが、実は自分の安全よりもハリーの身を案じていました。ハリーの傷が痛んだと聞くとすぐに帰国してホグズミードに潜み、グリフィンドール寮の暖炉に現れたほどです。一方、名付け親としてハリーへ忠告する時は慎重で、むちゃをするなと諭していました。ハリーが言うように、シリウスの学生時代の行動を考えると、少し理不尽に感じられるかもしれません。
ですが、シリウスは、自分が危険にさらされてもハリーを守りたいと思っていました。アズカバンから脱獄したのもそのためです。三大魔法学校対抗試合の悲劇を目撃したハリーを直接慰められたことは、シリウスにとって意味のある出来事だったのでした。
「ダンブルドア、明日の朝まで待てませんか?」
シリウスが厳しい声で言った。片方の手をハリーの肩に置いていた。
「眠らせてやりましょう。休ませてやりましょう」
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
ダーズリー家でひと夏を過ごし、吸魂鬼の予期せぬ襲撃を受けたハリー。しかもグリモールド・プレイスに到着すると、よそよそしい雰囲気でした。とはいえ、ハーマイオニーとロンに怒りをぶつけたのは間違いだったといえますね。ハリーの気持ちを理解したのは、シリウスたったひとりだけでした。
彼もハリーと同様、ダンブルドアの命令で自分の家とは思えない家に閉じ込められていたのです。そして、その生活がシリウスに与えた影響は明らかでした。逃亡中はハリーの安全を最優先にしていましたが、彼自身も身動きが取れない環境に置かれたことで考え方を一変させ、慎重な姿勢を崩すことになっていったのです。これがのちに問題を引き起こすことになりましたが、この一件でシリウスはハリーの気持ちを理解しました。ハリーにとって、珍しい出来事です。
ハリーが5年生になると、シリウスはより大胆になりました。グリフィンドールの談話室の暖炉に現れることが増え、ハリーの規則違反を後押しし、ホグズミードへ行くことを提案しました。大胆さが増すにつれ、ハリーの安全に対する不安は軽率なものになっていきます。
しかしそんな大胆な言動のなかにも、思慮に富んだ言葉がありました。特に名言とされているのが、こちらです。
「そうだ。しかし、世界は善人と『死喰い人』の二つに分かれるわけじゃない」
シリウスが苦笑いした。
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
そう、これはダンブルドアではなく、シリウスが言ったもの。もちろん、ご存じですよね?
学生時代をなつかしむときやハリーに大胆な行動を促すとき以外で、シリウスの笑顔が見られることはめったにありません。クリスマスにまさかのゲストと過ごせることが、よっぽどうれしかったのでしょう。「世のヒッポグリフ忘るな、クリスマスは......。」(ゴッド・レスト・ユー・メリー・ジェントルマン)の歌は、ご愛嬌ですね。