オリバンダーはいつも「杖が人を選ぶ」といっていました。しかし、魔法界とはいえ、いつでも自分の杖を使えるとは限りません。借りた杖やお下がりの杖を使う人もたくさんいましたが、その結果、オリバンダーの店の杖のように唯一無二でおもしろい瞬間が生まれることもしばしばありました。今日は、わたしたちのお気に入りの場面を紹介したいと思います......。
ロン・ウィーズリーがハリー・ポッターと初めて会話をしたときに、ロンは、兄のチャーリーが使っていた杖をホグワーツに持ってきたと話していました。その杖はすでにぼろぼろでした――傷があったり欠けたりしていて、芯に使われているユニコーンの毛が見え隠れしていました――その後、暴れ柳によって折られてしまいます。折れてしまってからは、修復できる見込みはありませんでした。
そんなふうにして、あの場面につながっていきます。杖がいうことをきいてくれないということが最もわかりやすい場面だといえるでしょう。ロンはドラコ・マルフォイにナメクジげっぷの呪いをかけようとしますが、うまくかからず、自分がナメクジを吐き続けることになってしまうのです。これで、はっきりとわかりましたね――折れた杖に、魔法道具を修理するスペロテープをいくら貼っても、もとには戻りません。そもそも、それが自分の杖ではないならなおさらです。最終的に、ロンは自分の杖を買ってもらえたのでよかったですよね。
ネビル・ロングボトムは、スクイブではありません。しかし、ネビルが8歳のときにうっかり窓から落とされるまで、家族に「純粋マグル」だと思われていました。そう考えると、自分の魔法の能力にまったく自信が持てないままホグワーツに入学したのも無理はないでしょう。ネビルはいつも不安げで、不器用で忘れ物ばかりしていたので、授業ではとても苦労していました。それは、杖を使う者にとってはつらいことです。ときには、シェーマス・フィネガンの大声に驚いて杖を滑らせ、自分の机の脚を消してしまったこともありました。
ところが、ネビルには数々の失敗とは別の問題がありました。ロンと同じで、自分を選んだ杖ではなく、お下がりの杖と一緒にホグワーツに入学しました。実際、ネビルは入学したときから、魔法省の神秘部で杖が折られてしまうまで、5年間もずっと父親の杖を使っていたのです。もし、オリバンダーの言葉――杖は自ら選んだ魔法使いや魔女のもとで最も力を発揮するということ――が本当なら、ネビルはとんでもなく不利な状態で日々を過ごしていたことになります。ネビルが失敗ばかりだったのもうなずけますよね。
ハリーの杖には、ダンブルドアが飼っている不死鳥フォークスの羽根が使われていたり、ヴォルデモートのものと兄弟杖だったりと珍しいエピソードがあります。ダンブルドアが言っていたとおり、ハリーの杖は、兄弟杖を持つ者に対して使われると「異常な力」を発揮するのです。そのせいで、ヴォルデモートの身に間違いなくいくつもの問題を引き起こしています。たとえば、墓地でふたりの杖がつながったことが原因で、ヴォルデモートはハリーを殺すことができませんでした。そして、ヴォルデモートの杖からそれまでに使った呪文が吐き出されます。ハリーの前には、ヴォルデモートの杖によって殺された人たちが現れ、語りかけてきたのです。そこには、ハリーの両親の姿もありました。それから数年後ハリーの杖は、ヴォルデモートが兄弟杖の問題に邪魔されないように用意した借り物の杖を破壊し、再びハリーの命を救ったのです。
そのため、ヴォルデモートはハリーの杖のせいで何度も厄介な目に遭ったといっても良いでしょう――しかし、ダンブルドアは「ほかの杖と変わることはない」とも話していました。これは、ハリーの杖だってもちろん破壊される可能性がある、という意味です。実際のところ、ハリーの杖は折れてしまいました。バチルダ・バグショットの家から、ハーマイオニーと一緒に脱出するとき、ヒイラギと不死鳥の尾羽根で作られた忠実なハリーの杖は完全に割れてしまったのです。この杖が破壊されてしまったため、ハリーは何本も借り物の杖を使わなくてはなりませんでした。ハーマイオニーの杖、ロンが人さらいから奪ったスピノサスモモの杖、マルフォイの館でハリーが奪ったドラコの杖。借り物の杖のなかで、ハリーが最も力を発揮できたのはドラコの杖でした。どうやら、オリバンダーの言葉は正しかったようですね。「杖を勝ち取ったのであれば、杖の忠誠心は変わるじゃろう」杖とは実に厄介なものといえます。
まったく忠誠心が変わることのなかった杖のひとつに、ベラトリックス・レストレンジの杖があります。ハーマイオニーは、この杖をグリンゴッツ魔法銀行に侵入するときに使いましたが、この杖のことを嫌がっていました。ハーマイオニーが勝ち取った杖ではなかったため、うまく使いこなせなかったのです。しかしその事実以上に、ベラトリックスの杖は死と破壊と闇の魔術の象徴だったからです。
後に、ベラトリックス・レストレンジの杖に対するハーマイオニーの本能的な反応は、いろいろな意味で正しかったことがわかります――なぜならグリンゴッツの小鬼たちは、ベラトリックスが(盗まれたはずの)杖を持っているのを見て、ハリーたちがとても大胆な方法で銀行に侵入しようとしていることに気づいたからです。結果として、ハーマイオニーとハリーとロンは探していたものを手に入れることができましたが、そのためには焼けつくほど熱い偽の金貨に襲われ、小鬼のグリップフックに裏切られ、ほとんど目のみえないドラゴンに乗ってグリンゴッツを脱出しなければなりませんでした。ハーマイオニーは自分の直感を信じて、ベラトリックスの杖を置いてくるべきだったのかもしれませんね......。
次に紹介する杖はいうことをきいてくれなかったというより、そもそも魔法の力を持っていませんでした。わたしたちの知る限りでは、本物の魔法使いから杖をもらったマグルは、「ファンタスティック・ビースト」シリーズに登場するジェイコブ・コワルスキー、ただひとりです。ダンブルドアに命じられたニュートが、マグルであるジェイコブに渡したものでした。誰がどう見ても、魔法界で作られた本物の杖に見えますが、魔法の力はありません。それでも、なんだか魔法が使えそうな気がしてきますよね。ですが少なくとも、ジェイコブにナメクジげっぷの呪いを逆噴射するようなことはありませんでした。