ホームに戻る

PRODUCTION NOTE

プロデューサーの被災地での経験が原点になったプロジェクト

プロデューサーの増本淳が福島第一原子力発電所事故を題材にした「THE DAYS」を構想した原点は、当然ながら2011年3月11日に発生した東日本大震災にあった。当時、フジテレビで連続ドラマ「大切なことはすべて君が教えてくれた」を手がけていた増本は、番組内に被災地出身者がいたこともあり、その凄まじい被害を身近に感じていたという。

「その後、被災地のために何かできることはあるだろうかと考え、同年4月の終わりに石巻市へ行き、ボランティア活動をしました。短い期間でしたが、そのときの体験が非常に大きかった」。そう語る増本は、津波で浸水した民家から汚泥を掻き出す作業に従事した。泥、ゴミ、魚などが基礎部分の内部にまで流れ込んでしまったその家に、再び人が住めるかどうかはわからない。やるせなさを感じて帰路に着いた増本は、その途中で、山の中腹でかろうじて壊れずに残された家の、傾いた柱の修復を手伝うことになる。増本はその家で飲んだお茶が忘れられないという。電気、ガス、水道はもちろん止まっている。その家の主である年老いた夫婦が井戸水を焚き火で沸かして淹れてくれたお茶。目の前には津波に流された街並みがどこまでも続いている。「強烈な無力感」だった。増本は、被害の大きさと自分のやれること、それらを比べたとき、自分のあまりの非力さに打ちのめされたという。しかし帰りの車中では、別の思いも脳裏をよぎった。「自分がやれることは物語を作ることではないか。(このとき東北で感じたさまざまなことを)物語として世の中に伝えられたら、少しは意義のあることをやれるのではないか」と。

やがて2019年1月付でフジテレビを退職し、フリーランスになった増本は、真っ先に「THE DAYS」の実現に向けて動き出した。企画の持ち込み先はワーナー・ブラザースである。「エネルギー問題はあらゆる人類が向き合うべき課題です。日本だけでなく世界中の人々に観てほしかったので、全世界に発信できるメディアと組みたかった。そこで“ワーナーさんとNetflixさんとでやれませんか?”と提案したんです。日本では前例のない組み合わせでしたが、両社共にとても前向きにとらえてくれて、さまざまなハードルを越えてタッグが実現しました」

複合的な事象が絡み合う原発事故をドラマ化するという試み

フジテレビ退職前から福島第一原発事故を独自に調べ、おおまかな物語を書いていた増本は、次第に「当事者の声が聞きたい」との思いを強めた。「実際に福島の中央制御室や緊急対策室で対処にあたった人々に、徹底的にインタビューして作られた書籍は2つしかありません。門田隆将さんの『死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫刊)と、共同通信社・原発事故取材班の『全電源喪失の記憶: 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』(新潮文庫刊)です。現場の当事者の声を書き留めた人にブレーンとして指南していただきたいと思い、フジテレビ退職直後の2019年2月に門田さんに初めてお目にかかりました」。こうして門田の協力を得た増本は、「死の淵を見た男~」を原案とし、「事故調査報告書」や「吉田調書」を柱にして脚本を書き進めていった。

参照すべき資料は膨大な量だった。それを脚本という形にするには、まずエピソードの取捨選択が必要だった。「非常に悩む部分でした。4つの原子炉が暴走していく過程において、現場はもちろん、東京でもさまざまな出来事が同時進行で起きている。当時の東京電力本社と現地の緊急対策室を結んだTV電話の映像を見ると、複数の発言者の言葉が被さるように飛び交っていて、わけがわからない程です」。そのため「物事の順番を決め、何かを捨てて何かを取り込む」必要が生じたが、それは「大変な作業だった」と増本は振り返る。また、視聴者の混乱を避けるためのもう1つの工夫として、実際には複数の関係者を1人のキャラクターに集約するような“登場人物の整理”も行ったが、その際に心がけたのは事実を誇張・歪曲しないよう細心の注意を払う、ということだった。

当初から増本には「このドラマを美談や英雄譚にはしたくない」という思いがあった。「いろんな意見があると思うんです。現地で事故対応にあたった人たちを英雄と見る人がいる一方、自分たちで起こした事故を自分たちで収束させただけではないかという見方をする人もいる。僕はどちらの意見も正しいと思う。だからこそ単純に感動できる美談とか、ミスした人を犯罪者のように描くだけの話にはしたくありませんでした」

こうした製作方針を掲げた増本の根底にあるのは、フジテレビ時代から実践してきた“エンターテイメントと社会性の融合”という試みだ。「社会的に難しい話は、そのままやってしまうと視聴者に興味を持ってもらえない。例えば『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』における“救急医療の不確かさ”という問題は、まさにそうです。どうすれば視聴者に興味を持ってもらえるだろう、ということをずっと考えてきました。難しい話をわかりやすく変えれば手っ取り早いですが、やりすぎて過剰な脚色になればそれは嘘になってしまいます。極力それを避けながらエピソードを取捨選択しました。もう1つ心がけたのは、先入観を捨てること。この人はすごく頑張ったんだ、この人は手を抜いたんだ、というような思い込みを持つと、その考えを補強する証拠探しのために資料を読んでしまうので、フラットな視点を保つことを常に頭に置いていました」

「日本一の役者」へのオファーから始まったキャスティング

キャスティングで最も重要だったのは、何よりドラマの中心軸となる主人公、福島第一原発の所長を演じる俳優だった。増本のファーストチョイスは、「並ぶ者がいない日本一の役者」と彼が考える役所広司だった。オファーした当初は「脚本を読んでもらえるかどうかもわからない」という不安が頭をよぎったが、後日、役所からは「これを丁寧かつ誠実に作れば、本当に世界に伝えるべき物語になるのではないか」という前向きなメールが届いた。そして役所の出演が決まったことで、キャスティングは一気に進んでいった。増本が語る。「僕のプロデューサー人生で、これほどスムーズにキャスティングが決まったことはありません。それはひとえに役所さんの力です。テーマに共感していただけたという要素はもちろんあると思いますが、それと同等かそれ以上にどの俳優の方々も役所さんと一緒に仕事がしたいということで、イメージどおりのキャスティングが実現しました」

1、2号機の中央制御室・当直長は、複数の責任者の立場にある人物をモデルにして作り上げたキャラクターだ。静かな強い意志を持つキャラクターを思い描いた増本が、竹野内豊にオファーした理由を語る。「竹野内さんはとても知的でありながら、現実感のある等身大のキャラクターも演じることができる方です。いわゆる熱血漢とは違う、前面に出さない内に秘めた責任感を表現していただけると思ったんです」

首相官邸で事あるごとに苛立ちをぶちまける総理大臣は、本作の悪役、もしくは嫌われ役と見られかねないキャラクターだ。しかし増本は「記号的な悪役ではなく、セリフや行動の行間に人間性が出るようなキャラクターにしたい」と考え、小日向文世にオファーした。「きっと断られる」。そんな恐れを抱きながら当時舞台に出演中だった小日向の楽屋に赴いた増本は、開口一番次のように言われたという。「大丈夫ですよ。嫌われればいいんでしょ?」。それが小日向からの粋な出演快諾の答えだった。

ベント決死隊の先陣を切るベテラン運転員は、増本いわく「このドラマの良心というべき存在」だ。「でも、常に正しいことを言い、皆のために頑張る存在は、ともすれば押しつけがましいキャラクターになってしまう」。そう考えた増本の脳裏に浮かんだのが小林薫だった。「小林さんの芝居はとても繊細で、一歩引いて演じても伝えてほしいことは倍伝わる。あの芝居は他の人にはなかなかない独特のもの。だからこそ小林さんにこの役をやってもらいたかった」

キャストは誰もが現場でリアリティーを重んじ、抑制した演技を実践した。彼らが醸し出す静かな迫力が結実し、最も視聴者の心を揺さぶるであろう場面に仕上がったのが、ベントをめぐるエピソードだ。小林と六平直政演じるベント決死隊1班のベテラン運転員が中央制御室に帰還し、それを出迎えた当直長(竹野内)、免震重要棟で報告を受けた所長(役所)らの間に、さまざまな人間的な感情があふれ出すシーンである。

この場面を演出した中田秀夫は、クリント・イーストウッド監督作品『ハドソン川の奇跡』を引き合いにして振り返る。「あの映画の終盤、機長役のトム・ハンクス、副機長役のアーロン・エッカートが公聴会でいろいろ詰問された後、休憩で廊下に出るシーンがあるんです。そこで2人は“We did our job(俺たちは仕事をしたまでだ)”という感動的なセリフを交わすんですけど、僕が撮ったのも“やるべきことをやったまでだ”という意味において同じなんですよね。所長や当直長が、あのとき背負った人命と責任感の重さはものすごい仕事なんだけども、それを淡々と“これはやるべきことなんです”と。役所さん、竹野内さん、小林さんらの芝居は、まさにそれを表現してくれたと思います」

通常の映画、ドラマでは困難な表現に挑んだ西浦、中田の両監督

本作を委ねる監督の人選に関して、プロデューサーの増本に迷いはなかった。「コードブルー~」のTVドラマ版と劇場版を共に作り、絶大な信頼を寄せていた西浦正記である。増本が語る。「世の中には一緒に仕事をしてみたい憧れの監督、すごい監督はたくさんいますが、『THE DAYS』は自分がフリーになって最初の企画だし、絶対に間違えが許されない。細部にわたって話し合いながら一緒に作っていける監督と仕事がしたかった。その点、西浦さんとは『コード・ブルー~』で、娯楽性と社会性のバランスをいかに取るかという議論を何度も交わしてきました。本作ではそのバランスをさらに突きつめた演出をしてほしいとお願いしました」

オファーを承諾した西浦は、準備段階で増本が用意した膨大な資料に全て目を通し、2019年の冬には実際に福島第一原発を見学した。「防護服を着て、線量計も持っていきましたが、本当に大丈夫だろうかという不安を感じました。制御室の圧迫感、原子炉との距離感、建屋の巨大さや密閉感を体感したことで、この企画が自分自身のものになっていった気がします」

メイン監督として全8話中6話分を担当した西浦のパートには、水素爆発や自衛隊の活動など多くの一般人が知る場面が含まれる。「それらのシーンを再現するにあたっては、スタッフの力がものすごく大きかった。当事者の目線を意識しつつ、水素爆発や放水シーンでは全体像を見せることが必要だったので、少し引いた目線でダイナミックに見せ、なおかつ細部にもこだわっています。また、建屋のロケ地は千葉にある廃工場でしたが、スタッフが瓦礫などの美術を作り込んで、セットでは難しい臨場感を生み出してくれたので、演出する僕らも演者も気持ちが入りました」(西浦)

増本が依頼したもう1人の監督は中田秀夫だった。2人の出会いは、2015年のフジテレビのドラマ「世にも奇妙な物語」にさかのぼる。言うまでもなく中田はJホラーを代表する恐怖描写の名手であり、増本はかねてから「人間ドラマも撮りたい」と語っていた中田の手腕と意欲を、このドラマで振るってもらいたいと考えていた。

中田が担当したパートは、ベントの決死隊が建屋内に突入し、暗闇の中での息詰まる作業が続く第4話と第5話だ。放射線という“見えない恐怖”の演出について、中田が語る。「第5話で水素爆発が起こった後、免震重要棟の裏口のような場所のシーンで、空気中にきらきら光って漂う粒子を撮りました。もちろん、これは放射線の映像的なメタファーです。それと効果音を入れる作業の際に、担当者の方に蚊の羽音のような音を加えるようお願いしました。そのような不快な音を使えば、視聴者に危険な事態が進行している感覚を無意識のうちに伝えられると思ったからです。この2つの要素に役者の演技を加えた3つの演出によって、放射線に対する現場の恐怖を表現しました」

また、ベント決死隊のエピソードをはじめ、通常のTVドラマではありえないほど映像の“暗さ”が際立っている点も本作の大きな特徴だ。中田は「フラッシュライトがないと台本を読めないほどの暗さだった」と証言する。増本がそれほどまでに暗い映像を追求した理由を説明する。「全電源を失った中央制御室や建屋内は本当に真っ暗だったんです。しかも現場の人たちは、視界が狭くて息苦しいマスクを着け、あの真っ暗闇の状況に置かれていた。それがどれほど人間の体力を疲弊させ、思考力を奪い、なおかつ恐怖を増幅させるかということを、視聴者に感じてほしかった」

中田は配信用に制作されたシリーズだからこそ実現できた表現について次のように語る。「配信用作品はドキュメンタリーものなどにすごく尖った作品がありますよね。本作でもスポンサーがつく地上波ドラマや映画では不可能なくらい、事故の真相/深層をギリギリまで追求しました」。一方、西浦は「一番は表現の幅が広いこと」だと語る。「例えば残酷なシーンや強く胸を締め付けられるようなシーンは、地上波ドラマでは避けられがちですが、本作ではしっかり幅を持たせて表現できました。より深い部分に触れられれば、人間の感情は文化の違いを越え、世界共通になっていくと思います。世界中の視聴者に多くのことを感じてもらいたいと思います」

映像と音の品質を最大限に追求したポスト・プロダクション

福島第一原発を襲った悪夢のような状況を再現するには、優れた視覚効果が欠かせなかった。しかし、決してCGが主役になってはいけない。そのような考えのもと、プロデューサーの増本は『劇場版 コード・ブルー~』などで旧知の仲の菅原悦史にVFXスーパーバイザーを依頼した。さらに増本が続ける。「撮影の際、僕が西浦監督にお願いしたのは視聴者に“VFXすごいよね”と思われる映像ではなく、“あの場にいた人たち、本当に怖かっただろうな”と疑似体験できるような映像でした。そのため原発が津波にのみ込まれるシーンでは、カメラ・ポジションを俯瞰ではなく、現場の当事者の目の高さに設定してもらいました」

ポスト・プロダクションでは、映像の質感を高めるためのカラーリングにもこだわったと増本は言う。「今、韓国のドラマがハリウッドと比べても遜色ないレベルの映像を世に送り出しています。映像の力で韓国が日本のはるか先を行っていることに危機感を覚えていたので、どこまでそれに肉薄できるかという気持ちがありました」。カラーリングを手がけたのは勝又秀行である。「通常、連続ドラマは1話あたり2000~3000のカット数で構成されていますが、勝又さんは今回、全てのカットを個別に繊細にグレーディングしてくれた。おかげで、とてもハイレベルな質感の映像になったと思います」。その結果、現地の緊急対策室、東電本店の統合本部、首相官邸の執務室など、似たような印象を与えかねない場面を視覚的に差別化することができたという。

そして増本は音楽について、「視聴者にここで泣けとか、主張のはっきりしたメロディーはそぐわない」と考えていた。むしろ放射線の見えない恐怖を伝えるために、「生理的に不快な音、耳障りな音から作られるサウンドトラックが欲しかった」という。ワーナー・ブラザースのプロデューサー、関口大輔に相談した増本は、ハリウッドの音楽プロデューサー、備耕庸を紹介され、ブライアン・ディオリベイラを推薦された。コロナ禍だったため、カナダ在住のディオリベイラとはオンラインで打ち合わせを重ね、緊張感に満ちた曲の数々が作られていった。

ホームに戻る

出演:役所広司
竹野内 豊 小日向文世 小林 薫
音尾琢真 光石 研 遠藤憲一 石田ゆり子
泉澤祐希 丸山智己 鈴鹿央士 淵上泰史 小木茂光 高橋和也 六平直政 酒向 芳 でんでん 吹越 満

企画・脚本・プロデュース:増本 淳
監督:西浦正記 中田秀夫
原案:門田隆将「死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋雅美
プロデューサー:関口大輔 増子知希 髙田良平
製作:ワーナー・ブラザース映画
制作:リオネス