魔法界には悪そのものから生まれた呪文がいくつもあります。そのなかでも、疑いようのないくらい邪悪なものはどれでしょうか。
アバダ・ケダブラよりも悪質な呪文はない、という人もいるでしょう。この呪文は、相手に死を与えるもので、ヴォルデモートが無差別に使っていました。しかし、魔法界で使うことを禁止されている呪文はほかにもあります。アバダ・ケダブラを始めとした許されざる呪文以外にも、間違いなく危険な呪文が存在するのです。
では、魔法使いや魔女が使うことができる呪文のなかで、どれが最も邪悪だと思いますか?一緒に探っていきましょう......。
厄介な呪文で、優秀な開心術士である魔女や魔法使いは、相手の感情や記憶を引き出すことができるのです。クイニー・ゴールドスタインのようなとても高い能力を持った開心術士は、まるで本を読むように一瞬のうちに相手の心を読み取ってしまいます。なかには、邪悪な理由でこの魔法を使う人物もいます。たとえばヴォルデモートは、開心術を使ってハリーの心に神秘部でシリウスが拷問を受けているという幻覚を植えつけました。そんなふうにして相手の心を読み取り、自分に有利になるようにうまく利用するのです。ハリーの場合、ヴォルデモートに開心術で見せられた幻覚が原因となって、最終的にシリウスの死につながってしまいました。自分のプライバシーと安全を守りたい人は、閉心術(オクルメンシー)を完璧に身に付けておくとよいでしょう。これは、開心術に対抗するための方法で、自分の心を閉ざして侵入されることを防ぐ魔法として知られています。
許されざる呪文のうち、まず1つ目に紹介するのは相手を完全に支配できる呪文です。偽物のムーディが、闇の魔術に対する防衛術の授業でクモにこの呪文をかけてみせました。
「わしはこいつを、思いのままにできる。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、だれかの喉に飛び込ませることも......」
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
服従の呪文をかけられた人は、他人に操られていることに気づかないようです。しかし、想像してみてください。自分の意志に反してやったことを後になって思い返すのは、どんなに恐ろしいことでしょう。服従の呪文をかけられた本物のムーディは、死喰い人によって魔法のトランクに閉じ込められ、痩せ衰えた姿で横たわっていました。また、スタンリー・シャンパイクのように(比較的)害のない魔法使いも、この呪文によって自分の意志に関係なくヴォルデモートの従者である死喰い人にさせられました。服従の呪文は、本人の意志を奪い、相手を完全に支配するのです。もちろん、予期せぬ事態になった後に、服従の呪文のせいにする人がいることは言うまでもありませんね。
次に紹介する許されざる呪文は、磔の呪文です。ハリーは、この呪文をヴォルデモートから受けたときに、耐え難い痛みに襲われました。「あまりに激しい、全身を消耗させる痛みに、ハリーはもはや自分がどこにいるのかもわからなかった」と思ったほどでした......。
磔の呪文を何度もかけられた者は、生き地獄のような苦しみを与えられます。ベラトリックス・レストレンジは、この呪文でロングボトム夫妻に壮絶な拷問を繰り返し、その結果夫妻は正気を失ってしまいました。ロングボトム夫妻の身に起きたことについて、ムーディは「あんなことになるなら、死んだほうがましだ」と話していましたが、事実を語るその声は悲しげでした。
ハリーもこの呪文を唱えたことがあります。初めて使おうとしたのは、シリウスが殺された直後にベラトリックスに向けて放ったときのことです。しかし、これは失敗に終わります。その理由をベラトリックスがあざけるような口調でこんなふうに説明しています。「苦しめようと本気でそう思わなきゃ――それを楽しまなくちゃ――まっとうな怒りじゃ、そう長くは私を苦しめられないよ――」
ベラトリックスのこの言葉によって、磔の呪文は唱える者にとっても受ける者にとっても悪質な魔法であることがよくわかります――この呪文を使う魔法使いや魔女は、混じりけのない悪意をむき出しにしなくてはならないのですから。
もちろん、この呪文をかけられた者が生き返ることはできません。魔法省は(そして、先ほど登場した偽物のムーディも)最悪の呪文だと考えています。もし、今回の記事で紹介した呪文が許せない順に並んでいるというのなら、あなたも納得できるかもしれません――しかし、受け入れがたいことにそうではないのです。アバダ・ケダブラによって一瞬のうちに与えられる死は、ほかの2つの許されざる呪いよりも(ほんの少しだけ)ましに思えてしまいます。少なくともセドリック・ディゴリーは、これから自分の身に何が起こるのかまったく気づいていませんでした。それに、残された人たちとは違って、ほとんど痛みを感じることはなかったでしょう。
半純血のプリンスの教科書には、この呪文のそばに「敵に対して」という言葉が添えられていました。その言葉からも、軽々しく使ってはいけないものだとわかります。この呪文をかけられると、顔や胸が「まるで見えない刀で切られたように」裂けて血が噴き出してきます。ハリーが呪文の効果を知らないままマルフォイ向けて放ったとき、スネイプがその場に飛び込んでくるまで、マルフォイは出血多量でそのまま死んでしまいそうなほどでした。このエピソードからわかるのは「セクタムセンプラ」は極めてたちの悪い呪文だということでしょう。呪文を受けた者が、息絶えるまでに味わう衝撃と恐怖を考えると当然ですよね。少なくとも「アバダ・ケダブラ」は一瞬で命を奪うのですから。
これまで紹介してきた呪文によって苦しめられるのは、受けた者だけでなく、呪文を放った者の心や良心だということがおわかりいただけたことでしょう。分霊箱を作るには、考えられる限り最も邪悪な闇の魔法が使われます――とても危険なので、ホグワーツの図書室にはその作り方を記した本は1冊もありません。ヴォルデモートのように不滅の命に執着し、愛に飢えた魔法使いだけが作ろうとするのです。分霊箱を作るには、殺人を犯さなければなりません。完成すると、作った者は自分の魂を引き裂いて、自分の体の外にある物の中に隠すことができます。こうすることで理論上は、より不死に近くなるとされていますが『ハリー・ポッターと謎のプリンス』のなかでホラス・スラグホーンがこんなふうに話していました。「......トム、それを望む者は滅多におるまい。滅多に。死のほうが望ましいだろう」
ヴォルデモートはスラグホーンの言葉を聞き入れず、自分の魂を何度も引き裂きました。なぜならヴォルデモートにとっては、死を回避することが何よりも――自分の魂よりも大切だったからです。こうして魔法界で最も悪質な魔法によって、この上なく邪悪な闇の魔法使いに不滅の命が与えられました。ヴォルデモートの分霊箱は、この闇の魔法使いが自分以外の存在をなんとも思っていないことを示しています――分霊箱を作るということは殺人を犯すだけでなく、自分の欲望のために犠牲になった人の命を利用するということなのです。どちらも卑劣な行いですし、魂のかけらで生き続けることは、真の意味で生きているとはいえません。それはヴォルデモート以外の誰もがわかっています。ダンブルドアが言っていたように、死よりもひどいものは数え切れないほど存在します。もちろん、自分の魂を引き裂くことはそのうちのひとつです。