「エクスペリアームス!」ハリー・ポッターを代表する呪文に注目

クスペリアームスという呪文は、ハリーのトレードマークになりました。しかし、どうしてハリーはこの呪文をこんなにも気に入ったのでしょうか。

この記事ではネタバレにご注意ください。

簡単に説明すると、エクスペリアームス――武装解除の術――は「武器を排除する」という意味です。その言葉のとおり、敵が持っている物を強制的に吹き飛ばすことができます。大抵、吹き飛ばすのは相手が持っている杖です。そのため、この呪文は決闘でよく使われます。ハリーが数々の戦いの場面で何度もこの呪文を使っていることを考えると、用途をよくわかっていたのでしょう。ハリーはこの呪文を非常に気に入り、最後にはヴォルデモート卿を倒すときに使いました。この記事では、「エクスペリアームス」がどのようにハリーを象徴する呪文になっていったのか――そして、なぜそれが良いことであり悪いことでもあるのかを探っていきます。

スネイプ先生がハリーに使って見せた

ハリーが自分を象徴する呪文を知るきっかけとなったのは、ロックハート先生が開催し、あっけなく終わってしまった決闘クラブでのことでした。この呪文を使ったのはロックハートではなく(もちろん)スネイプです。ハリーが2年生のときのスネイプは、わたしたちにとってはいつも不機嫌でハリーのことを嫌う魔法薬の先生でした。しかし、死喰い人だった過去を持つこの勇敢な魔法使いが、かつての主人であるヴォルデモート卿を倒す呪文をハリーに教えたと思うと興味深いですよね。

エクスペリアームスを習得する

呪文を使いこなすにはこつが必要です。ハリーは、三大魔法学校対抗試合の最初の課題で呼び寄せ呪文の習得に時間がかかっていましたし、ハーマイオニーでさえ守護霊を呼び出すのに苦戦していました。そのため、ハリーがエクスペリアームスをすぐに覚えたという事実を考えると、ピンチのときに自信を持ってこの呪文を使うことができたことにも納得がいきます。ハリーは、決闘クラブでスネイプが使っているのを見てから数か月もしないうちに、この呪文を使ってドラコからトム・リドルの日記を取り返し、逃亡しようとしたロックハートを武装解除しています。しかも、2年生も終わりに近づいた頃にこの呪文の習得を始め、あっという間に上達してしまいました。

また、ハリーはエクスペリアームスをうまく使いこなし、叫びの屋敷でスネイプを武装解除し、三大魔法学校対抗試合の課題のときには巨大な蜘蛛の脚から脱出しています。ですが、ヴォルデモートに対して使うようになって初めて、エクスペリアームスはハリーを象徴する呪文になっていくのです――そこには、後にルーピンがほのめかしていたように、危険が潜んでいました。

ヴォルデモート卿を武装解除する

ハリーが何度もヴォルデモートを撃退してきたことをハーマイオニーとロンが話し始めたとき、ハリーは強い口調でこんなふうにふたりの会話を遮っています。

「なんとか切り抜けたのは――それは、ちょうど必要なときに助けが現れて、それに、僕の山勘が当たったからなんだ――だけど、ぜんぶやみくもに切り抜けたんだ」
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』

このハリーの言葉を表しているのが、墓地でのヴォルデモートとの場面です。ヴォルデモートに決闘をさせられそうになったとき、ハリーはエクスペリアームスの呪文を思い出します。死喰い人に囲まれ、ヴォルデモートに殺されることを覚悟したとき、武装解除の術が自分を遠くに逃してくれるわけではないことをわかっていながらも、ハリーにはこの呪文しかありませんでした――自分を守ることは後回しにして、とにかく死を拒んだのです。

実際、ハリーが予想したとおり、エクスペリアームスでヴォルデモートを武装解除できたわけではなく、助かったのはむしろ直前呪文プライオア・インカンタートのおかげでした。そしてハリーの言葉を借りるなら、ヴォルデモートの杖の犠牲になった人たちの影に助けられ、なんとか切り抜けたということになるでしょう。

「得意技」になったわけ

墓地の場面については、ヴォルデモートが望む結末ではなかったかもしれません。しかし、ヴォルデモートと死喰い人はハリーが失神の呪文ではなく、武装解除の呪文で戦おうとする姿を目にしました。それが原因となり、後にハリーは不利な状況に陥ってしまいます。ハリーは七人のポッターの戦いで、服従の呪文をかけられたスタンリー・シャンパイクに対してエクスペリアームスを使い、意図せず正体を明かしてしまうのです。これについて、ルーピンはハリーを厳しく叱っています。

「『エクスペリアームス、武器よ去れ』は役に立つ呪文だよ、ハリー。しかし、死喰い人は、それが君を見分ける独特の動きだと考えているようだ。だから、そうならないようにしてくれ!」
『ハリーポッターと死の秘宝』

少なくともハリーがエクスペリアームスに頼ったのは、墓地での決闘でヴォルデモートを撃退した呪文だからというのが理由のひとつのようです――そうはいっても、墓地で助かったのは別の呪文のおかげだったので、エクスペリアームスがヴォルデモートを撃退したとはいえないのですが。それでも、ハリーがダンブルドア軍団の仲間たちに武装解除の呪文を教えようとして、ハッフルパフ寮のザカリアス・スミスに嘲笑されたときや、スタンリー・シャンパイクに対してこの呪文を使ったことをルーピンに叱られたときも、この呪文が救ってくれたと言い返しています。エクスペリアームスは、ハリーを守ってくれたのだから、きっと他の人も守ってくれるはずですよね?

しかし、ここまで紹介してきたことがすべてではありません。ハリーは、エクスペリアームスという呪文に自信があったのかもしれません。もしかすると、この呪文を信頼しすぎていたせいで死喰い人に見抜かれてしまったのかもしれません――ルーピンはそう考えていました――ですが、この時点ですでにエクスペリアームスはハリーの象徴となる実用的な呪文になっていました。

エクスペリアームスでヴォルデモートを倒す

ハリーがルーピンに言い返した言葉のとおり、もし、何百メートルも上空でスタンリー・シャンパイクに失神の呪文を使っていたら「『アバダ ケダブラ』を使ったも同じことになっていた」でしょう!

まさに、それこそが違いといえます。武装解除は防御の呪文であり、相手を殺すためのものではないのです。ヴォルデモートは人殺しですが、ハリーはそうではありません。ヴォルデモートについて多くを知り、自分と似ている部分を直接目にしてきたハリーにとって、それは最大の違いでした。そのため、ルーピンの言葉は理にかなっていたのですが、ハリーはこんなふうに言い返しました。「たまたまそこにいるだけで、邪魔だから吹き飛ばしたりするなんて、僕にはできない......そんなことはヴォルデモートのやることだ」

最後の戦いで、ハリーは自分を象徴するこの呪文を使って抵抗します。それまでにハリーは多くの経験を積んでいましたが、ニワトコの杖についてはまだ不確かなことがいくつもありました。それでも、ヴォルデモートが「アバダ ケダブラ!」と叫ぶのと同時に「エクスペリアームス!」と大声で唱えたとき、ハリーの姿は周りで戦いを見守っている人たちへ、ルーピンに向けたものと同じメッセージを伝えました。この呪文で新たな血を流すんじゃない、争いを終わらせるんだ、と。

ヴォルデモートを象徴する呪文は「アバダ ケダブラ」であるのに対し、ハリーの呪文は「エクスペリアームス」です。どちらが良いか、みなさんはわかりますよね。