杖 の持ち主に対する忠誠心は、あらゆることに左右されるようなのです。
伝説的な杖職人、オリバンダーでさえ、杖の術の全てを知っているわけではありません。しかし、オリバンダーは、杖が持ち主を選ぶと断言しています。その言葉が全てを表しているのでしょうか?ハリーの杖は、一瞬にしてハリーと繋がり、素晴らしい力を発揮する瞬間がありました。リドルは、その力を自分がヴォルデモートであることを知らせるために使い、バーテミウス・クラウチ・ジュニアは、闇の印を空に放つのに使いました。そしてもちろん、ヴォルデモート自身の杖とも繋がっています。
時々、持ち主を裏切るのはハリーの杖だけではありません。それが、困ったところなのです。杖は、持ち主の魔法使いと同じくらい、何をしだすか予測できません。
オリバンダーはハリーに、最良の結果は持ち主を選んだ杖がもたらす、と言っていました。もし、それが事実なら、ロンの1本目の杖が見事に持ち主を裏切ったのは、驚くことではありません。その杖は、ロンの兄、チャーリーからのおさがりだったからです。
チャーリーの杖は、暴れ柳での事故で半分に折れてしまってからは、特に、ロンにはうまく扱えなくなっていました。テープで留めて修理してもよくならず、それが逆に裏目にでて、おさがりの杖は今の持ち主のロンに対して、少しも忠誠心を示しませんでした。「ナメクジ食らえ」の呪文は最も悲惨でした。本当なら、呪文にかかるのはマルフォイのはずだったのに、ロンがハグリットの小屋で大量のナメクジを吐き続けるはめになりました。
ロンの1本目の杖が忠誠心を示さなかった理由はもうひとつあります。オリバンダーの記録によると、その杖にはトネリコの木が使われていました。
「トネリコは、自分の本当の持ち主への忠誠を貫く性質があるので、本来の持ち主は、だれかに譲ったり、プレゼントしたりするべきではない。そうすれば、杖は力もその能力も失ってしまう。芯材にユニコーンの毛が使われていると、この性質はさらに高まる。」
'Wand Woods' J・K・ローリング
チャーリーの杖には、ユニコーンの毛が芯材に使われていました。ですから、この杖がロンに忠誠心を持つ見込みは少しもなかった、ということです。
イルヴァーモーニー魔法学校の創始者、イゾルト・セイアが1620年に恐ろしいおばのゴームレイス・ゴーントのもとから逃げ出したとき、その杖の最初の持ち主がサラザール・スリザリンで、芯にはバジリスクの角が使われていることを知らずに、ゴームレイスの杖を持って行きました。
盗んだ杖は、イゾルトがアメリカで生活を始めた頃は、忠誠心をみせていましたが、ゴームレイスがグレイロック山までイゾルトを追ってくると、杖の態度が急変しました。ゴームレイスが蛇語でだした「眠れ」という命令に従い、イゾルトに従うのをやめたのです。杖を持っていたのはイゾルトだったのに、杖がおばの命令に従ったのは、イゾルトは杖を盗んだものの、勝ち取ってはいなかったため、杖の忠誠心を得られなかったからかもしれません。オリバンダーはこんなふうに言っています。
「繊細な法則が持ち主に影響するが、制圧された杖は通常、新しい持ち主の意志に従うものだ」
'Wand Woods' J・K・ローリング
ゴームレイスの杖がイゾルトに従っていたのは、彼女がその杖の周りにいる唯一のスリザリンの子孫だったからです。しかし、蛇語で呼びかけられると、その忠誠心は一瞬でおばに向けられてしまいました。このエピソードから、「盗んだ杖を信じてはいけない」という教訓が得られます。
一方、持ち主に服従している杖――つまり、マルフォイ家の館でのハリーのように、持ち主が自分で勝ち取った杖――は、また別の話です。
ロンからもらったリンボクの杖よりも、ドラコの杖の方がはるかにハリーに馴染んでいました。なぜなら、リンボクの杖はハリーに忠誠心を示していなかったからです。ハリーがリンボクの杖で使う魔法は弱く、ハリーはこの杖に対して「出しゃばりで違和感があった」という印象を持っています。反対に、ドラコから奪った杖は、ハリーが手にしたときからすでに忠誠心を見せていました。ハリーが、ヴォルデモートを倒すときに使うほど馴染んでいました。
オリバンダーは、ベラトリックス・レストレンジの杖を「頑固」と表現していました。グリンゴッツ銀行を襲撃したとき、ハーマイオニーはその杖を使っていましたが、しっくりこないと感じていました。
「何もかもしっくり来ないの。私の思いどおりになあないわ......あの女の一部みたい」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
ハーマイオニーがベラトリックスの杖をうまく扱えなかったのは、杖の忠誠を勝ち取っていないからだとハリーは考えました。ハリーがロンからもらったリンボクの杖と同じです。それでも、おもしろいことに、ホグワーツの戦いでは、ハーマイオニーは、ベラトリックスの杖を問題なく使えているように見えました。
ハリーは杖を選んだ日に、自分とヴォルデモートの杖の関係を知りました。しかし、その杖が何度もハリーの命を救ったことを考えると、ヴォルデモートの杖との関係は問題ではありません。
ヴォルデモートが、このつながりに気付くにはしばらくかかりましたが、リリーがハリーを守ったこととあわせて、ハリーを殺せなかった理由を確信しました。ヴォルデモートの杖は、何度か持ち主に逆らっています。赤ちゃんのハリーを殺しませんでしたし、成長したハリーのことも殺しませんでした。それに、三大魔法学校対抗試合のあとに墓地でふたりが戦ったとき、跳ね返った魔法からヴォルデモートを守りませんでした。それで、ヴォルデモートは他の杖で戦おうとしましたが、すでに攻撃を受けていることに気づいていませんでした。ヴォルデモートの杖は、持ち主の魔法を失敗させるだけではなく、裏切ったのです。ダンブルドアがハリーにこんなふうに説明しています。
「きみの杖はあの夜、ヴォルデモートの杖の力と資質の一部を吸収した、とわしは思う。つまり、ヴォルデモート自身の一部をきみの杖が取り込んでおったのじゃ。そこで、あの者がきみを追跡したとき、きみの杖はヴォルデモートを認識した。血を分けた間柄でありながら不倶戴天の敵である者を認識してヴォルデモート自身の魔法の一部を、彼に向けて吐き出したのじゃ」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
杖の服従についてオリバンダーの見解とともに、この出来事について考えると、ヴォルデモートは、ニワトコの杖を手に入れることに取り憑かれ、見当違いの努力をしていたようですね。
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』ブルーレイ&DVD好評発売中
レンタル/デジタル配信でもお楽しみいただけます。
https://wwws.warnerbros.co.jp/fantasticbeasts/