ハリー・ポッターと手紙の力

ホグワーツの教科書リストから吼えメールまで、魔法界でやりとりされる手紙が特殊な力を持っていることは紛れもない事実です。特にハリーは手紙の力を強く感じたことでしょう。ホグワーツからの手紙が届くまで、誰からも手紙をもらったことがなかったのですから......。

禁じられた手紙

『ハリー・ポッターと賢者の石』 第3章でハリーは、宛先に「ハリー・ポッター様」と書かれた手紙をなんとかして読もうとします。自分宛てに届いた手紙を読みたいと思うのは当然ですよね。この不思議な手紙にはものすごい力があり、その影響力はハリーだけでなくダーズリー家全員に及びます。いくら処分しても毎日届く手紙にバーノンおじさんはパニックになってしまいます。郵便受けの下で寝るだけでなく、手紙が入りそうなすべての隙間板に板を打ち付け、挙げ句の果てにはハリーの手に手紙が渡らないように仕事まで休むほどです。

ハリーは階段下の物置からちゃんとした部屋に移るように言われても、頭の中は手紙のことでいっぱいでした。きっと、自分宛の手紙が届いたハリーは、人生で初めて自分がこの世界に存在していることを感じたのではないでしょうか。ハリーがどこで寝ているのか知っている人がいて、だれかがハリー――ダドリーのお古を着ている男の子――宛てに書いた手紙。その手紙は、どこからどう見てもハリー宛でした。「ぼくに読ませて。それ、ぼくのだよ」といってハリーは怒りました。そして忘れてはならないのは、ダーズリー夫妻は3章の最後に家を出てまで、甥のハリーに届く手紙から逃げようとするのです。このときはじめてハリーの持つ力がダーズリー夫妻の権力に勝ちました。

ホグワーツからの手紙

世界中の読者がホグワーツからの手紙が届いたらいいな、と思ったのではないでしょうか。マグルの家庭で育った子どもたちにとって、何の前触れもなく届くこの手紙は、郵便受けに届いた瞬間から人生を変えるほどの驚きと力を持っているのです。手紙に書かれた重大な事実を全て読まなくても、その内容は一行目からすでに魔法に満ちています。

"親愛なるポッター殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。"
『ハリー・ポッターと賢者の石』

ダーズリー家でものすごくみじめな生活を送っていたハリーにとって、ホグワーツからの手紙は何よりも、新しい生活が始まる予感を感じさせてくれるものでした。ハリーの人生は――ホグワーツから届いた手紙と同じように――紛れもなくハリーだけのものです。さらに、ハリーにとってホグワーツからの手紙は、初めて両親とのつながりを感じるものでもありました。両親も学んだホグワーツからの手紙は、ハリーの過去と未来を――魔法使いとしての過去と未来を――光で照らしました。

吼えメール

吼えメールが初めて登場するのは『ハリー・ポッターと秘密の部屋』です。この手紙は書かれている内容ではなく、その伝え方が特徴的です。怒りに満ちた真っ赤な封筒で届き、開けたとたんに、信じられないくらい大きな送り主の声でメッセージが読み上げられます。ふつうなら、手紙はプライベートなものなので、宛先に名前の書かれた人だけが読むものです。しかし、吼えメールは個人的な内容をまわりにいる人全員に知らせてしまいます。吼えメールは、そこに書かれた秘密の内容を大声で読み上げるので、受け取った人は恥ずかしい思いをします。そうそう、それなら開けなければいいじゃないか、と思いますよね。この手紙はすぐに開けないと破裂してしまいます。全校集会でみんながいるところに、自分に吼えメールが届いたと想像してみてください。たとえば、大広間でウィーズリー夫人から怒りの吼えメールが届いたロンみたいに......。

"・・・・・・昨夜ダンブルドアからの手紙が来て、お父さんは恥ずかしさのあまり死んでしまうのでは、と心配しました。こんなことをする子に育てた覚えはありません。"
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』

ペチュニア・ダーズリーが吼えメールを受け取った場面も忘れられません。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』では、ダーズリー家が煙をあげる真っ赤な封筒を受け取り、大騒ぎします。「開けたきゃ開けてもいいよ。でもどうせ中身は僕にも聞こえるんだ。それ吼えメールだよ」とハリーは言います。ロンのときと同じように、ペチュニアおばさんに向けて書かれた個人的な内容が、部屋じゅうに響きます。「私の最後のあれを思い出せ、ペチュニア」その後、ハリーやバーノンおじさんが手紙の内容について何を聞いても、ペチュニアおばさんは答えてくれませんでした。吼えメールの力によって、バーノンおじさんとハリーは、ペチュニアおばさんは自分たちが知っているよりずっと魔法界に関わっているという事実に気づくのでした。

シリウスからの手紙

シリウスがハリーに送った手紙は、いろんな力を秘めていました。まず、ダーズリー夫妻以外の大人の、しかも魔法使いの後見人がいることをハリーに教えてくれました。シリウスがハリーに送った最初の手紙は、こんな言葉で締めくくられていました。

"わたくし、シリウス・ブラックは、ハリー・ポッターの名付親として、ここに週末のホグズミード行の許可を、与えるものである。"
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』

ダーズリー夫妻がホグズミードに行く許可証にサインをしてくれなかったので、ハリーはいらいらしていました。シリウスは手紙の中の簡単な一文で、ハリーの後見人としての権力を使えば、新しい世界への扉を開けることを示したのです。

シリウスからの手紙が秘めていた力はそれだけではありません。逃亡生活を送るシリウスとホグワーツにいるハリーは、手紙のやりとりを通して絆を深めていきました。「三大魔法学校対抗試合」のとき、それからアンブリッジがホグワーツの校長に就任したときにシリウスはハリーに手紙でアドバイスを送りました。ハリーは、シリウスと手紙のやりとりをすることで、ホグワーツに関係のない人物、ロンやハーマイオニー以外の人に悩みを相談することができました。何と言っても、ハリーが額の傷の痛みについて初めて打ち明けたのは、ハーマイオニーでもロンでもなく、シリウスでした。そして、ハリーは自分の両親であるジェームズとリリーが生きていれば、きっと感じたはずの愛情を、シリウスから感じることができました。激しく一方通行なシリウスの愛情は、ハリーにずっと欠けていたものでした――親子の愛に似たものが、ふたりの手紙にはっきりと表れていました。

リリー・ポッターがパドフットに宛てた手紙

この手紙を読むと――亡くなった愛する人からの手紙はどれもそうですが――書かれた言葉を通して愛する人の声が聞こえてくるようです。赤ちゃんのころに母親を失ったハリーはこの手紙を読むことで、記憶にないくらい幼いころのハリーについて話す母親の言葉に触れることができたのでした。

「この手紙は信じがたいほどの宝だ。リリー・ポッターが生きていたことの、本当に生きていたこと証だ。母親の温かな手が、一度はこの羊皮紙の上を動いて、インクでこういう文字を、こういう言葉をしたためたのだ。自分の息子、ハリーに関するこういう言葉を。」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』

この手紙は二枚目に続いていましたが、グリモールド・プレイス十二番地の家では見つけることができませんでした。手紙の二枚目はある人物が持ち去っていたのです。その人物にとって、リリーの手紙はハリーが感じるのと同じくらいの力を持っていました。じつは、なくなっていた二枚目には「愛を込めて リリー」と書かれていたのです。リリーの署名と「愛を込めて」と書いてあるページを、ローブにしまい込んで持っていった人物はだれでしょうか......。

CREDIT:COURTESY OF POTTERMORE
出典:POTTERMORE
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